第80話
その日のうちに恵ちゃんのお母さんと美咲ちゃんのお母さんが学校に来て、三人で話し合いの機会を設けた。
「この度はうちの恵が本当に申し訳ありませんでした。今日しっかり謝らせたと先生からもお聞きしたんですが、もう一度謝罪させていただきます。
それから秋葉先生にもお世話になりました。申し訳ありませんでした。うちの子がすぐに反省しなかったことでご迷惑をおかけしました。
……それで、美咲さんの治療費を私達の方で持たせて頂きたいのですが」
美咲ちゃんのお母さんは最初から下手に出た恵ちゃんのお母さんのことは悪く思わなかったらしく、治療費に関する話だけをして帰って行った。
恵ちゃんのお母さんがいたからか、美菜実にも特に文句を言わなかった。
次の日から、恵ちゃんのノートに二人で一緒にメモを取っていった。
「授業のベルが鳴ったら絶対に椅子に座って準備をして待っている」
「先生が黒板を見てくださいって言ったら必ず黒板を見る」
「先生が注意したら素直に聞く」
「跳び箱や鉄棒は危ないので遊ばない」
段々とメモは増えていって、授業中にも集中していないときにはよく声をかけるようになった。
次の先生の引き継ぎのためにも同じメモをノートに書いておいた。
それでもなかなか授業中に集中が続かなくて、何度も注意してははっと気付いて机に向かうのを繰り返して冬が過ぎていった。
恵ちゃんは座学の授業中の集中は最大でも十分ほどしか続かなかったが、跳び箱や鉄棒など体育の時間になると怪我をさせてしまったことを思い出していたらしく注意をよく聞いて自分から危ないことをしないようになっていった。
頑張れた日には「恵さん今日の体育では危ないことしなかったね」と毎回言うようにしていて、それに嬉しそうに「今日はできてた、危ないことしなかったし皆怪我しなかった!」と言っていた。
恵ちゃんは一度美咲ちゃんを怪我させてしまったことで失った自信を何ヶ月もかけて少しずつ取り戻していった。
座学はテストの途中でも集中が逸れてしまったが、近くに寄っていって小さく声をかけるだけでまた机に向かえるようになるまでには成長していた。
しばらくして授業参観の日が来た。
いつもはいない自分の親にまた集中が逸れてしまう皆。ただでさえ皆気が逸れるその日、恵ちゃんも当然のように後ろのお母さんとお父さんに手を振っていた。
自分も授業の様子を見られていると思うと少し緊張する。
「いつも通り進めるから集中しましょう。間違えるのは恥ずかしいことじゃないから積極的に発言してね」と声をかけると皆がよく手を上げて発言して親に見てもらえるように頑張っていた。
美咲ちゃんは特に発言が多く、お母さんも誇らしいという顔をしていた。
間違えてしまっても皆諦めずに発言するようになっていて、後ろの親御さん達もそれを嬉しそうに見ていた。
恵ちゃんは少しずつ、でも着実に集中する力をつけていった。冬休みも家庭で少しずつ集中を伸ばせるように練習してもらうようにお願いしてあった。
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