第79話

「恵さん」と声をかける。


「よくちゃんと謝れたね。反省してくれてたみたいで先生嬉しかったよ」


そう言うと少し辛そうな顔をして、「お母さんにすっごく怒られた。


先生が注意してくれてたのにそれ聞かないままで恵が遊んでたせいで、美咲ちゃんがもしも一生治らない怪我をしてたらどうするのって言われた。


美咲ちゃん仲良しだからそうなって欲しくなかった。なのに恵昨日先生に言われた時謝れなかったし悪いことだと思ってなかった。


お父さんにも怒られた。自分が悪いことをしたのに人のせいにするなんて卑怯な人がやることだぞって言われた。卑怯って言葉が嫌だった。


でもお父さんもお母さんも絶対に恵が間違えたって、間違えるのは悪いことじゃないけど絶対に間違えたら責任をとってちゃんと謝らなきゃいけないって言ってた。


昨日は先生にも謝れなくてごめんなさい。先生のせいにしたのも、美咲ちゃんのせいにしたのも良くなかった。


先生何回も恵のために注意してくれたのに聞かなかったのは恵だった。卑怯だった。


『恵には発達障害でどうしても落ち着けないことがあるかもしれないけど、そのまま謝れない大人になるのは障害よりもずっとずっと悪いことだよ』って言われたの。


恵落ち着けないの先生がいいよって言ってくれてたからいいやって思ってたけど、もっと落ち着けるようにしないとまた他の子怪我させちゃうかもしれない。どうしよう」


恵ちゃんは充分反省して、自分の障害と向き合おうとしている。


それなら私にできるのは「一緒に先を見て一緒に頑張る」ことだけ。あと残り少ない三ヶ月の間で、できるだけその不注意に気をつけること。


「まずよく反省できたね。お父さんとお母さんが言ってたように、きちんと間違えた後に美咲さんにも先生にも謝ってくれてありがとう。


これからのことなんだけど、もう一度同じ事が起きないように注意が逸れてたらいつもよりも多めに先生から声をかけてもいいかな? 


先生が話したことを一緒にメモに書いて、同じ事をもうしないようにしようか。それでどうかな?」


そう聞くとうん、そうしたいと答えが返ってきた。


その次の日に小さなノートを買ってきてもらうように連絡帳に書いて、次の日からADHDの対策を二人で始めることに決めた。


連絡帳には、「無事反省してくれた様子で怪我をした児童にも心から謝罪できていました」と書いておいた。


美咲ちゃんの連絡帳には怒りのメッセージが書き連ねてあったが、「昨日は本当に申し訳ありませんでした。怪我をさせてしまった児童から謝罪の言葉を聞いて、美咲さんはすぐに許してあげていました」と書いた。


美咲ちゃんのためには、プリントを文字を書く形ではなく、正しい答えに丸をつけてもらう形にして用意した。


「聡君すごいね、美咲全然左手だと書けない。丸書くのも難しいよ」


「美咲ちゃんはまだ始めたばっかりだからだよ。俺も最初は全然できなかったよ」と聡君もサポートの言葉をくれて、美咲ちゃんも取り残されずに授業を受けることができた。

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