第78話
次の日、腕に包帯を巻いた美咲ちゃんが登校してきた。朝の会で全員がいることを見てから「おはようございます」と言ってその日一日の予定を話す。
朝の会が終わってから、美咲ちゃんに声をかけに行った。
「美咲さんおはようございます。手は今は痛くないかな?」
「今はもう大丈夫。お母さん怒って学校に行って『明日からうちで勉強しなさい』って言ってたけど学校来たかったから無理矢理来た。
多分帰ったら怒られる。先生も昨日前みたいに怒られたんでしょ、先生悪くないのに。ごめんなさい」
「こちらこそきちんと様子を見て止めてあげられなくてごめんなさい」
「いいよそんなの仕方なかったし」
もう自分よりも、母親よりも大人な様子で自分の悪かったことを流してくれた。
「恵さんとはお話したかな?」
「全然話しかけてこないからまだしてない」
「そっか。じゃあちょっとだけお話ししてほしいな」そう言って恵ちゃんを呼ぶ。
「恵さん、美咲さんに言うことがあるはずだよね」
「……ごめんなさい。恵がごろごろしてたせいで美咲ちゃんが怪我しちゃった」
その声は昨日よりもずっと反省していた。かなり家で怒られてきたんだろう。
美咲ちゃんはすぐにそれを許した。「いいよ、でもこれからは気をつけてね」
「うん、美咲ちゃんこれからも仲良くしてくれる?」
「いいよ、でもまた何かあったり、ちゃんと謝ってくれなかったりしたらできないかもしれない。だからちゃんと謝ってくれてありがとう」
恵ちゃんが安心したような顔をしている。二人が別れた後二人に声をかけに言った。
「美咲さん許してくれてありがとう。優しいね」
「美咲も見てなかったの悪かったんだろうし、恵ちゃん元々そういう子だもん。もっと美咲が注意してれば良かった」
美咲ちゃんはどんどん大人になってきていて、コミュニケーションが苦手とされるはずが今では皆の輪の中心で楽しそうに笑うようになっていた。
共感を示すのが難しくて他の子に何度も文句を言っていたのももう昔のことのようで、皆に合わせて話ができるようになっていた。
ASDは簡単にその特性を変えられるものではない。
それなのにこの子の特性で今気になるのは食の好みが偏っていることと目線が合わないことくらいしかない。
授業五分前には必ず必要な物全てを持って準備をしているし、たまに読書や他のことに集中しすぎて授業開始に気付かないことはあるが、声をかけて肩を軽く叩くと「ごめんなさい」と言ってすぐに授業の準備をしてくれるようになった。
一年生の初めの頃はすぐに文句をつけていたのにその面影はもうどこにもない。
人の成長の早さにまた驚かされながら今度は恵ちゃんのところに話しかけに言った。
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