第77話

お母さんは学校に来て教室に通した時、もう既に顔を真っ赤にして怒っていた。とりあえず席に座ってもらう。


「この度は誠に申し訳ありませんでした」とまずは深く頭を下げた。


「うちの子は障害のせいで勉強についていけなくならないように先々のことまで一緒に勉強してきたんです。


障害で大変な思いをさせまいと家族一団となって頑張ってきたんです。それなのに他のお子さんのせいでそれが叶わなくなりました。どうお思いですか」


「申し訳ありませんでした。美咲さんはおっしゃる通り非常に成績が優秀です。


ただ、学校生活上どうしても他の児童と接することにはなりますので避けられない側面もあることはご承知ください」


「それは他の子どもがいるなら怪我をしても当然で、怪我をしても仕方ないということですか。先生の注意が足りていなかったんではないんですか。


先生がしっかりしていないから美咲が怪我をしたんではないですか」


「その点に関しては誠に申し訳なく思っています」


「謝罪に誠意が感じられません。今後うちの子の勉強はどうなさるおつもりですか。これまで頑張ってきた美咲の成績が落ちてしまったらどうするんですか。


うちの子には中学受験をさせようと思っています。今後の美咲の人生に影響が出たらどう責任を取ってくれるんですか」


「その点に関しましては事故が起きたのが本日のことですのでこれから考えていこうと思っております。


右手が使えなくても充分に学習していただけるようにすることが担任である私の責務です」


「お気付きではないんですか。さっきから私はその責任を持つ担任があなたでは不十分だったと言っているんです。他の先生に変えていただけませんか」


「申し訳ございませんがこのような事故によって教員が交代することはできません。


来年度からは別の教師が当たることになりますが、現在この小学校で特別支援教育に関して詳しい先生は私以外にはおりません。


このクラスの児童全員の特性を説明しただけでは、それがよく理解できないまま二年生になることになってしまいます。


次年度からは普通教室と変わらない教師が私と充分相談の上で担当することになると思いますが、今それをすることはできません。


そうすれば美咲さんの特性を理解していない教師が担当することになってしまいます」


その言葉でお母さんはより怒って、あなたなんかに任せられないのになんで他の専門の先生に変えてくれないんだ、と一時間以上詰め寄ってきた。


それでも美菜実には謝罪してただそれは無理な相談なのでできない、と言うことしかできなかった。


お母さんはひとしきり怒ってから「あと三ヶ月もあなたに任せるなんてやっていられません。自宅で教育を受けさせます」と言ってきた。


「本日は誠に申し訳ありませんでした。ただ、教育を受けさせる義務は発生しますので、美咲さんの意思に任せてくださることは可能でしょうか。


美咲さんが教室で授業を受けたいとおっしゃったら登校してくるまでにこちらでできる限りの支援をさせていただきます」


「うちの美咲が怪我をした場所に行くわけがないでしょう」と怒って、恵ちゃんのお母さんと会うことは了承して帰って行った。

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