第76話

「本当に監督不行き届きでしかないですね。全くどうしてくれるんですか、この子はこれまで授業に欠席することもなく毎日頑張ってきたのに。

相手の子はどういった障害ですか」


「ADHDという不注意や多動の特性を持った子になります。落ち着きがなく、今回も何度か注意させていただいたのですが事故に繋がってしまいました。


本当に申し訳ありません。話し合いをさせていただいたのですがまだ反省しておらず、家庭での指導をお願いしたところです。それ……


「何度も注意をしたのに聞けなかったのはその子の障害のせいでしょうか、それとも先生の注意が不十分だったんでしょうか」


「どちらもあると思っております。三回は注意をさせていただいたのですが、授業の進行上の問題でそれ以上の注意をすることができませんでした。誠に申し訳ありません」


「その子の障害も”個性”だと思っていらっしゃるんでしょうか。その”個性”がうちの美咲を怪我させたことになりますが」


「すみませんでした」


「謝罪が聞きたいわけではありません。個性だと思われているのか聞いています」


「特性であることは確かです。ですがまだ未熟な部分が多く、今後の指導を必要とする状態です」


「それは障害ということですね? ……障害のせいにしたら許されると思っていらっしゃるんでしょうか。親御さんは何とおっしゃっていたんですか」


「家庭で指導すること、それから美咲さんのご家族にお会いして直接の謝罪と治療費の話がさせて欲しい、とのことでした」


「分かりました。秋葉先生よりは良識のある方のようで安心です」


その厳しい言葉も美咲ちゃんを守れなかったんだから甘んじて受け止めるしかなかった。


「秋葉先生にも直接お会いしたいので今から美咲のことは置いて学校に向かいます。お時間をください」


有無を言わせないその言葉に承知しました、と返して電話が切れた。


良識のない教師、か。なかなか刺さるな。でも友達のことを思って避けた子を守れなかったんだ。


怪我をして帰ってきた娘を見て出てくる言葉なのは仕方ないしこれから何を言われても仕方ない。


自分は恵ちゃんにその場で反省してもらうことすらできなかった。反省して欲しいと、あの子にならそれがすぐにできると思っていた。


それくらいに大人として扱っていた。でもあの子は謝る気配の一つも見せなかった。


これが半年以上指導してきた自分への採点結果だ。


自分が責任を持つのは当たり前だ、子どもを預かっているんだから。そしてその大事な子どもに怪我をさせてしまったのだから。


決意を固めてお母さんが来るのを待った。

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