第75話

そのまま教務室に戻ってまずは恵ちゃんのお母さんの携帯番号に電話をかけた。すぐにその電話は繋がった。


「市立第一小学校の秋葉美菜実と申します。高橋恵さんのお母様でお間違いないでしょうか」


すぐにはい、少し待ってください、と声がして電話越しにすみません、少し席を外します、と声が聞こえた。


「……すみません。いつもお世話になっております。今日は恵が何かしたんでしょうか」


「……はい。実は体育の跳び箱の時間に再三の注意を無視してマットに寝転んでおり、よけようとした他の児童が右手首の骨折と打撲をしました。


恵さんにお話はさせていただいたのですが、怪我をした子の方が前を見ていなかったからだ、先生がすぐに止めなかったからだ、と言っており反省した様子が見られませんでした。


私の監督不行き届きをまずはお詫びいたします。それに恵さんとの話し合いで充分に反省してもらうことができなくて申し訳ありませんでした。


ご家庭での指導をお願いできますでしょうか」


それを聞いて恵ちゃんのお母さんがすぐに謝った。


「うちの恵がご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。恵にはよく言い聞かせておきます。


それから、怪我をした子のご家族に会わせて頂くことは可能でしょうか。直接私からも謝罪をさせて頂きたいのと、治療費に関してのご相談をさせて頂きたいのですが」


「ご指導して頂けるとの旨、ありがとうございます。怪我をした子のご家族の方にも伝えさせて頂きます。


追ってご連絡させていただきますのでその際はよろしくお願いいたします」


「ご連絡ありがとうございました。この度は本当に申し訳ありませんでした。それでは失礼いたします」そう言ってその電話は切れた。


次に電話するのは美咲ちゃんのおうち。


最初に会った時の雰囲気からしてかなり怒っていらっしゃることは確実だろう、と思いながら電話をかけた。


「もしもし、市立第一小学校の秋葉美菜実と申します。大島美咲さんのご家族でお間違いないでしょうか」


「はい。母です。今回はどうしてくれるんですか、美咲は痛がっていてしばらく右手も使えないそうです。


これからの授業やテストをどうして頂くおつもりでしょうか。体育の授業中の事故と聞きましたがどういった状況だったんでしょうか」


「児童が跳び箱を跳んだ後にマットに横になってしまいまして、それをよけようとした美咲さんが転んで跳び箱の下敷きになった形になります。


この度は監督不行き届きで誠に申し訳ありませんでした」


その言葉でお母さんは完全に怒って言葉を荒くし始めた。

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