第74話

それからも授業の時間の空気は重かった。休み時間には「恵さんには先生からお話するので、皆さんは怒らないであげてね」と言って教室を出た。


そのまま放課後になって、皆が帰り支度をする中恵ちゃんもそのまま帰ろうとする。


「恵さん、先生から話があるって言ったよね。ここで待っていてください」そう言われてまたさっきのように不満そうな顔をしてランドセルを乱雑に置いた。


皆が帰って行ってから机を向かい合わせて目線を合わせる。


「美咲さんは右手首を骨折したそうです。すごく痛がってたよ。それについてどう思ってるのかな」


「美咲ちゃんがよく見てなかったから勝手に来て転んだんだと思う。恵のこと見てたらさっきみたいなことにはならなかったと思う」


その責任逃れをする言葉に傷ついた。恵ちゃんに反省していて欲しかった。


でも恵ちゃんは反省するどころか、自分の上に落ちてこないようにと庇って怪我をした美咲ちゃんに責任をなすりつけた。


「先生は跳び箱を始める前になんて言ってたかな。覚えてる?」


「そんなの一時間目のことなのに覚えてられないよ」その不満そうな声に怒りをはらんだ声で答えた。


「恵さん。今日先生は皆が怪我をしないように、気をつけてねって恵さんに二回言いました。


その後にも、跳び箱を跳んだらすぐにマットからずれて外側を歩いて戻るように言ったよ。


美咲さんは、恵さんの事を見つけたから恵さんに怪我をさせないように退こうとして怪我をしたの。今回悪いのは完全に恵さんです。


美咲さんが見ていなかったからじゃありません。美咲さんが本当に恵さんを見ていなかったら、美咲さんが上に落ちてきて恵さんが怪我をしてたんだよ。


そうならないように一瞬で横によけてくれたの。それでもまだ美咲さんが悪いと思うのかな」


この言葉で思い直して、自分が悪かったと感じて欲しかった。自分が言うことを聞かなくて、気持ちいいからと寝転んだせいで友達が怪我をしたと思って欲しかった。


それなのに、恵ちゃんから返ってきた言葉はそれではなかった。


「美咲ちゃんも悪いし、恵もちょっとは悪いのかもしれないけどもっと早く止めなかった先生も悪いと思う」


それは美菜実が思う分にはよかった。監督不行き届きだったのは間違いない。でもそれは言い訳にしていい言葉ではなかった。


「恵さん、反省してください。先生も確かにもっと早く止められたら良かったけど、今回悪かったのは恵さんです。


美咲さんは痛い思いをして、しばらくの間右手が使えないんだよ。自分がそうなったらどうだろうって考えてください。


美咲さんが来たら必ず最初に謝ってください。心から謝るんだよ。親御さんにも連絡するので、自分が悪かったんだなってちゃんと思い直してから学校に来てください」


それに「お母さんからも怒られるの嫌なんだけど」と返ってきて怒鳴りたくなった。


それを抑えて言う。


「悪いことをした時、それを認めないで逃げるのが一番悪いことです。きちんと叱られて考え直してください」と言ってその日は恵ちゃんを家に帰した。

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