第73話
保健室に着いたとき保健室の先生はいなかった。
とりあえずベッドに横にして痛い、痛いと言いながら辛そうにしている美咲ちゃんのことを撫でる。
「痛いね、ちょっとでも楽になる姿勢があったらそうしてみてね」
声をかけてもそれが聞こえているのかもわからないくらいに痛そうにしていて、さっき触った手首は見ているうちにどんどん赤黒く腫れていく。
「ちょっと先生保健室の先生呼んできても良いかな?」大きめの声で聞くとふるふると首を横に振って「秋葉、せんせ、そばに、いて、痛いっ」と言った。
美咲ちゃんは痛みでそのままうつろな目になってそれでも「痛い」と言い続けた。
しばらくして保健室の先生が戻ってくる。
「すみません、体育の跳び箱中の事故です。跳び箱から倒れて下敷きになりました。手首が痛いとのことです、さっき見た時よりもかなり腫れています」
そう告げると保健室の先生が手早く確認し始めた。「他に痛いところはないかな?」ない、と答える。
「でも体もちょっと痣になってきてるね、体全体打ったかな」
「そうですね、体ごと横向きにずり落ちたような形でした」
手首を触った瞬間に叫び声が上がる。
「もしかしたら折れてるかも知れませんね、このまま病院に連れて行きます。先生ありがとうございました」
そう言われて体育館の方に戻る。遠目に見ても誰一人跳び箱には近づいていなかった。
聡君が怒鳴っている。
「恵ちゃんのせいで美咲ちゃんが怪我したんだよ?! なんでそんな普通にしてるんだよ! もっと反省しなきゃ駄目じゃん!
どうしたらいいか考えるとかすぐに謝るとかなんでしなかったの?!」
その声で走って体育館に入って「聡さんありがとう、でも怒らなくて良いからね。恵さん、美咲さんが怪我してしまったから後で一緒にお話ししましょう。
さっき気をつけないと危ないよって話したよね。恵さんが寝転んだから美咲さんはよけようとして落ちてしまったんだよ。
……皆さん跳び箱を片付けましょう。時間が遅くなってしまったので急いで片付けて次の時間に入ります」
恵ちゃんは何も言わずに不満そうにしていた。
皆が一言も発さずに静かに跳び箱とマットを片付けた。
重い雰囲気は教室に戻って二時間目が始まっても変わらないままで、いつもなら話しかけてくるタイミングでも誰も声を出さなかった。
二時間目が終わって少しだけ長い休憩に入る。教務室に戻ると机に付箋が貼ってあった。
「養護教諭より連絡 大島美咲さんが打撲と右手首骨折とのことで早退 ご家族に連絡をしたところ後で担任から折り返すようにとのことです」
骨折か。恵ちゃんのうっかりや落ち着きのなさはこれまで見逃してきた。でもそれが今回の結果になってしまった。あの子からまだ謝罪も聞いていない。
それにそれを予想して止められなかった自分にも責任がある。その重い責任を感じて、放課後に連絡することにしてまた教室に向かった。
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