間違いと意地と努力と
第72話
季節は秋から冬に変わっていった。十二月になり、もう皆繰り上がりのある計算もカタカナもマスターしていて、いつの間にか皆ニットを着てくるようになっていた。
気付けば皆入学して来た時から一回り身長も伸びているような気がした。
「皆来年の身長測定できっと背が伸びてるね」と声をかけると皆で背を比べ合って楽しそうにしていた。
その日は一時間目から体育で跳び箱をすることになっていた。
いつも通りの学校の体操をして、跳び箱とマットの準備をする。
恵ちゃんはいつも通りにマットに寝転がってみたり跳び箱を触ってみたりと落ち着きなく動いている。
「恵さん、気をつけないと跳び箱で怪我をすることがあるからちょっと落ち着こうね。うろうろしてるとすごく危ないよ」
そう言ってみてもはーい、と言うだけでなかなか話を聞こうとしない。
少し不安になって「恵さん、他の子が怪我をするかも知れないから絶対に気をつけてください」ともう一度言う。
それでも「先生大丈夫だってばー」と聞いてくれない。
仕方なくそのまま跳び箱を始めた。小さくて柔らかい跳び箱と、少し大きめの固い跳び箱を並べてその二つを順番に飛んでもらう。
「飛び終わったら必ずすぐにマットから横に逸れて外側を歩いて戻ってきてください。危ないから気をつけてね」
皆がはーい、と返事をして跳び箱が始まる。二手に分かれた児童が順番に跳び箱を跳んでいく。しばらくして恵ちゃんの番が回ってきた。
恵ちゃんが跳び箱を跳んでそのままマットにごろんと気持ちよさそうに横になった。
「危ない!」そう声をかけた時、後ろから美咲ちゃんが走ってきて跳び箱を跳んだ。
「きゃっ恵ちゃっ……!」そう言って美咲ちゃんが恵ちゃんをよけようとして体を傾ける。
ガタンッと体育館に大きな音がして、美咲ちゃんが固い跳び箱の下敷きになって横に倒れた。
「全員ストップしてください!」その声で皆が気付いて美咲ちゃんのところに走って寄ってくる。
「ごめんね皆、ちょっとどいてください。美咲さんの様子を見ます」そう言って大きな声を出すと皆が後ろに退いた。
「痛いっ……」美咲ちゃんが倒れて体を丸めている。跳び箱をすぐにどかして美咲ちゃんに話しかけた。
「美咲さん、どこが痛いかな」
「手、手が痛い!」
叫ぶその声で痛さが伝わってくる。
「ちょっとだけ触るね」そう言って手首を触った瞬間に「あああああっ痛い、痛い!!!」と叫んだ。
叫んで叫んで痛そうにまた手を引っ込めようとしてその動きでまた痛がる。
「ちょっと先生は美咲さんを保健室に連れて行くので皆さんは絶対に跳び箱を跳ばないでください。静かに待っていてください!」
そう言って美咲ちゃんを抱きかかえて保健室に向かった。
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