第69話

昼休みに入ってから楓ちゃんと筆談をすることにした。


「今日絵を描くときに何で顔を川に入れてたのかな? あ、怒ってはいないよ、ただ心配しちゃったんだ。」


するともう慣れたようなひらがなで「かわのなかまでかきたかったから」と返ってきた。


「息が苦しくなったり、水を飲んで苦しくなったりしていないかな? 今も大丈夫そう?」という問いかけには頷いて教えてくれた。


「そっか、先生安心したよ。川の中に描きたい物があったんだね。これからこういうことがあったら、先生に教えてくれると嬉しいな。


楓さんが万が一にでも溺れちゃった時に、声が出せない分見つけるのが遅くなっちゃうかも知れないから。もちろん、声がで出ないのは悪いことじゃないよ。


でも先生と一緒なら何かあった時にすぐに助けられるからね。それに先生ももしも溺れてたらどうしよう! って心配にならなくて済むからさ。


お願いしてもいいかな? ちょっと危ないかもしれないことをしたい時や、危ないことが起きたときは先生にすぐに教えて欲しいの」


うん、と頷いて「しんぱいかけてごめんなさい」と書いた。


「いいよ、無事で良かった。もしもこれから苦しくなったらすぐに教えてね。そうだ、もしも必要そうだったら、ホイッスルおうちで買ってもらおうか。


学校で持ってても良いことにするからね。そうだなあとは……どんな絵になりそうか、後で見てもいい?」と聞くとうん、と頷いてくれた。


「いもうとにみせたいの」


「妹さんがいるんだね。何歳かな?」


「ごさい。でも、にゅういんしてるの。ちいさいころからびょういんのそとにでたことないの。だからそとをみせてあげたいの」


そう返ってきて初めてその子のことをもう一つ知った。その子自身の障害に関することは最初から把握していたが、その子の兄弟のことはいるかどうかしか知らなかった。


妹も病気で入院生活なのか。


その子に外を見せてあげたくて絵を描いた。水の中に頭を突っ込んでまで、川の中まで描ききろうとしていたのか。


「そっか、教えてくれてありがとう。すごく素敵な理由だね。先生も楓さんの絵が完成するの楽しみにしてるね。


それから、妹さんも良くなって外に出られるようになったら嬉しいね」


そう言うと今日一番の笑顔で頷いてくれた。その後はいつものように皆の輪の中に入って一緒にゲームをしていた。


楓ちゃんのためか、皆体育の時にやった、言葉を使わなくてもできる人間知恵の輪をしていた。


「先生助けて、からまる恵」と腕が変な方向に曲がっている恵ちゃんに少しアドバイスして、一度ゲームが終わったのを見届けてから教務室に戻った。

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