第63話
聡君は少し落ち着いてから「先生、ありがとう」と給食を受け取った。
「もし教室で食べたかったら一緒に持って行くけどどうする?」
「いい、ここで食べる。皆に泣いたのばれたくないしさっき保健室の先生も念のため今日は帰りなさいって言ってたから。
……秋葉先生、俺の荷物持ってきてくれる? ランドセルと机の中の教科書」
そう言いながら聡君はもう冷めているであろう給食を食べ出した。
「いいよ。じゃあお母さんにも連絡帳で今日は頑張ったんですよって書いても良いかな?」
「うん。先生、一緒にいてくれてありがとう。俺消防士になれなかったらどうしようって思って怖くなったけど、まだ諦めないで頑張ってみる」
「そっか、すごいね、強くてかっこいいね。聡さんが消防士になったら、きっと他の病気や事故で障害がある子も頑張りたいなって思えるね」
その言葉で涙で赤くなった目が少し輝いた。
「俺、俺みたいな子の目標になれるかもしれないんだね」
やっと少しだけ希望が与えられたことが嬉しくなる。
「俺、まだ右手使えないけど練習したら動くようになるかなあ」
「なるといいね、病院の先生に聞いてみようか。もしも右手が動かなくても、きっとできることはこれからどんどん増えていくよ。
たとえば聡さんは左手でも今上手に字が書けるようになったよね。姿勢もかっこよくなったね」
そう言うと嬉しそうに「ほんと?!」と聞いてくる。
「本当だよ、聡さんは一年生の数ヶ月でもうできることが増えてるんだよ。すごいね」
それがまた嬉しかったようで聡君は給食を詰め込むように食べ始めた。
「ゆっくりでいいからね、あんまり焦らないんだよ」
「うん」
素直にゆっくり食べ出す目の前の子がかわいくて、この子の夢が叶って欲しいと心から思った。
この子も”小さい大人”だ。
もちろん他の子だってそうだけど、この子もこの子なりに将来のことを考えて不安になったり頑張りたくなったりする。
なら私にできることは全力の応援。それからもしも無理だった時に新しい道を一緒に探すこと。
「聡さんさ、もちろん消防士さんになれたらかっこいいけど、聡さんみたいな怪我をした人のお手伝いをする人にもなれるかもしれないね。
消防士は無理だって言ってるわけじゃないよ。でも先生それも素敵だなあって思ったな、今」
「……考えたことなかった。でも俺も事故に遭ってからしばらくリハビリの人が一緒に歩く練習してくれた。それもかっこいいね」
「そうだね。夢はいくつもあってもいいんだよ。消防士を目指して、その中でもしかしたら他にもやりたいことが見つかっていくかも知れないね」
わくわくし出したような顔を見て安心して、「じゃあ先生ちょっと準備してくるね。しばらくここで待っててね」と給食を持って保健室を出た。
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