第57話

その日の連絡帳にはあったこと全てを書いた。頑張った花菜ちゃんの姿を全て書いた。


そして、負けなかった花菜ちゃんのように朝顔もまた立ち直って七月に入る頃にはつるを伸ばして綺麗な花を咲かせていた。


暑くなる季節。花菜ちゃんは変わらず毎日せっせと水やりをして、「今日も花が咲いてたの」と嬉しそうに教えてくれた。


そして季節が変わるのは早いもので、皆が予想通りに苦戦した時計の見方をなんとかマスターしたところで夏休みが来た。


「皆さん朝顔を忘れずに持って帰ってね、最終日になると荷物が増えて大変だから分けて持って帰るんだよ」


その言葉に美咲ちゃんは毎日物を少しずつ減らしていったが、恵ちゃんは毎日その言葉を忘れて最終日に全ての荷物を抱えることになった。


「皆にとって初めての夏休みだね。遊びに行って、たくさん楽しいことをして、素敵な思い出を作ってください。でも宿題もあるから忘れないでね。


自由研究もやってくるんだよ、皆宿題の内容が書いてある紙なくさないでね。それから、安全と健康にも気をつけて。夏休み明けに、元気な皆さんと会えるのを楽しみにしています」


そんな定番の台詞にも皆は少し上の空ながらはーいと言ってくれて、その後の全校集会では恵ちゃんが寝ているのを見つけて怒りに行った。


あんなにもどうしようもないと思っていた学校生活なのに、気付けばもう三ヶ月半が過ぎていて、感慨深くなる。


別にこのクラスから離れるわけじゃないんだし、と思いながら美菜実も全校集会の間にあくびをかみ殺した。




夏休みが、始まった。


学校の閉庁日には家族に会いに行って、自分がどんな体験をしてきたのか事細かに話した。


両親とも嬉しそうに、美菜実の子どもの頃のことを思い出しながら聞いてくれた。教師の顔ではなく、親の顔で二人とも過ごしていた。


子どもじゃなくて”小さな大人”だったと言うと、二人ともそうだね、と自分の受け持っている生徒のことを思い出しながら言ってくれた。


それからはなんだかんだと仕事も入り、夏休みはどんどんと過ぎ去っていった。


恵ちゃん、宿題忘れてこないかな。美咲ちゃんは多分大丈夫だな。


皆に、会いたいな。そう思って夏休みを過ごしきった。

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