第55話
そのまま待っていると三人の男の子を連れて三組の先生が来た。
花菜ちゃんが後ろにくっついてくる。後ろにいるその子が不安そうにしているのが顔を見なくても分かる。
それとは真逆に、担任に連れてこられた男子は不満げな顔だった。
とりあえず他の子の視線の的にならないように一緒に廊下に出る。
三人が横に並んで担任の先生が後ろにつく。
「ほら、皆」と言われて、なんで自分が謝らなければいけないんだ、といわんばかりの表情で「ごめんなさい」と三人が小さな声で言った。
「何がかそれじゃ分からないだろう、何を謝ってるのかちゃんと言いなさい」担任の先生も責任を感じているのか厳しめな声で言ってくれた。
「ごめんなさい、運動会の前に話しかけて、朝顔倒して」
一人の子がそれだけ言って他の子は何も言わずにまた「ごめんなさい」とだけ言う。
この子がどんな気持ちでいたか全く分かっていないし分かろうともしていない。
”話しかけて”? ちょっかいかけたんだろう、この子は嫌だったって言った。”倒して”? 朝顔の支柱はご丁寧に四本とも抜かれていたし花まで踏みつけられていた。
「子ども扱いされたくない」とうちのクラスの子は言った。そしてそれに見合うだけの努力をしてきた。
きっとこの子達も言うんだろう。それなのにこんな時ばかり自分のことを子どもとして扱われようとしている。都合がいいにも程がある。
先に自分で怒ってしまいそうになってそれを封じ込めた。
もうこの子に武器はあげた。許すか許さないかはこの子次第だ。私が口を出して良いことじゃない。
花菜ちゃんはしばらく黙ってその子達を見ていた。「……なんでやったんですか」
いつも友達にも自分にも敬語を使わずに親しんでいてくれている花菜ちゃんが敬語で話したのを、音読以外で初めて聞いた。
怒ってる。この子なりに最大限に相手を遠ざけようとしている。
「それは、……あの、いつもクラスにいない、ひまわり学級の人だったから、」
それで担任の先生が叱った。「そんな差別するなんておかしいだろう。連絡帳にも書いて親御さんにもしっかり言ってもらうからな」それで男の子達が縮こまる。
それも気に留めないように毅然とした態度で花菜ちゃんが聞いた。
「私がひまわり学級にいることの何が良くないんですか」それで男の子達が完全に黙った。
「私何か嫌なことしましたか」それにも答える声はない。
「なんでよりにもよって私が大好きなお花を踏みつけたんですか。満足しましたか」それで男の子達は皆下を向いた。
美菜実にはその四人を見守っていることしかできなかった。
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