第54話

一限が始まる前にその犯人は出てきた。


三組の先生から「すみません秋葉先生、様子がおかしい児童がいたので話を聞いたところ藤巻さんの朝顔を荒らしたという男子児童が三人出てきました。


監督不行き届きで申し訳ありません。一人見つかってからは全員話し始めました。運動会の練習の時にちょっかいをかけても反応してくれなかったから、とのことです。


一時間目の前に謝らせに行ってもいいでしょうか」


分かりました、と返事をして、一時間目よりも早い時間に花菜ちゃんのところに向かう。


「花菜さん、ちょっと皆とお話ししてるところ悪いんだけどいいかな」そう聞くと話の輪から抜けて来てくれた。


「花菜さん、三組の子と一緒に運動会の練習したのは覚えてるかな」


「うん」


「その時ちょっと嫌なこと言われなかった?」


「言われたけど無視したよ」


「そっか、頑張ったね。先生に相談したくなったらそういうことも話して良いからね。……それでね、その子達が朝顔やっちゃったんだって。これから謝りに来てくれるみたいなんだ」


その顔が曇ったのが見える。


「先生、本当は『皆と仲良くしましょう』って言うのが正解なんだろうけど、花菜さんは嫌なことを二回も何もしてないのにされちゃったよね。


先生から見てて辛そうだった。先生も辛くなった。だから先生から一つ、ちょっとだけいけないことを教えても良いかな」


それにこくん、と頷く。


「あのね、謝ってきても許さなくてもいいんだよ。謝る人は皆許して欲しいって思うと思う。でも、本当に嫌で、もう許したくないって思ったら、


『ごめんね、許せないよ』って言っても良いんだよ」


その言葉は意外だったようで花菜ちゃんがぱっと顔を上げてこっちを見た。


「先生がそんなこと言うって思わなかった」


「だよね、先生も言うと思わなかった。でも大人になったらそれでもいいの。皆と仲良く、したかったらしても良いけど、しなくてもいいんだよ。


これは仲良くしたくないから意地悪しても良いって意味じゃないからね。花菜さんは優しいから分かってくれるかな、と思って言っちゃった」


「私意地悪はされて悲しかったからしない。でも、いいよって言わなくてもいいんだね」


「そう。上手く伝わったみたいで嬉しいな。だから謝ってもらっても駄目だなって思ったら武器にしよう。これからやっちゃった子達が来るけど、先生も一緒にいるからね。怖くないよ」


「うん、分かった。先生ありがとう」


それだけ話して花菜ちゃんをまた輪の中に戻す。自分も授業の準備をして時間を待った。

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