第53話
昨日は風もなかった。周りの朝顔は今日も綺麗に花を咲かせている。
それなのに、「ふじまき はな」と書かれたプランターだけ支柱が抜かれてつるもズタズタに踏み荒らされていた。
見てすぐに分かる悪意。
こんなことする子はこのクラスにはいなかったはずだ、あんなに皆で喜び合っていたしこれだけ花菜ちゃんが楽しみにしていたことも知っている。
いや、このクラスではないと、信じたい。たった五人のクラスの中でいじめが起きたら、その子の居場所はどこにもなくなってしまう。
とりあえず泣いている花菜ちゃんを落ち着かせて、一緒に支柱を立て直してつるをもう一回巻き付けた。
よく見れば花まで踏まれている。本当ならそこについた泥も拭ってあげたいがそうすると花びらごともぎ取ってしまうことになる。
「ごめんね花菜ちゃん、今はこれしかできないけど先生達で相談して何でこうなっちゃったのかはお話するからね」
「うん、先生ありがとう」
こんな辛い時でもお礼が言える花菜ちゃんはやっぱり優しくて、そんな子にこんなことをしたのは誰だと思ってしまう。
ぐすぐす泣く花菜ちゃんの背中を撫でて一緒に教室に向かった。
教室でしばらくして落ち着いた花菜ちゃんを見て教務室に戻る。
朝のミーティングでその件を一学年の教師全員に伝えた。
「藤巻花菜さんのものだけ朝顔が荒らされていました。足で踏んだ跡もあったので故意だと思います。うちのクラスでも聞いてみますが藤巻さんのいる三組でも聞いて頂けませんか」
そう聞くと三組の担任の先生はすぐに了承してくれた。
そのまま朝の会に向かう。
「おはようございます。今日は皆さんに少し聞きたいことがあります。藤巻花菜さんの朝顔について知っている人はいますか?」花菜ちゃんは下を向いた。
「花菜ちゃんの朝顔? 普通に咲いてるよね」美咲ちゃんの言葉に楓ちゃんもうんうんと頷く。恵ちゃんは「何かあったんですかー?」と聞いてくる。
聡君もそれに興味があるようで、少なくとも知っていてごまかしている顔には見えない。
それに少し安心した。
「実は、花菜さんの朝顔だけ支柱が抜かれて足で踏まれていました。皆のことを疑ってはいないんだけど、もしもやっちゃったよっていう人がいたら先生のところに来てください。間違えちゃったら謝るのが一番大事なことだから、勇気が要るかも知れないけどお願いします」
そう言って頭を下げると聡君と恵ちゃんから「ひどい、そんなの知らない」と声が返ってくる。
美咲ちゃんも「花菜ちゃん大丈夫?」とASDの子には少し難しいであろう共感を示して花菜ちゃんを心配していた。
姿を見る限りこの中にはいないことに、そして美咲ちゃんが少しずつ成長していることに安心してその日の朝の会は終わった。
終わった途端に皆が花菜ちゃんの周りに集まって心配しているのも見えた。
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