第52話
六月も数日が経った頃皆で追肥をして、本格的に大きくなってきた葉を眺めて皆で観察日記を書き進めた。
「今日からは支柱を立てます」そう言って皆の分の支柱を持ってくる。
「これから、今見えている茎の部分がつるになっていきます。つるはそのままだと上に上手に伸びることができないので、支柱に巻き付けることでつるが上手に伸びるようにします」
はーい、と返事が返ってきて観察が終わった子からプランターの四隅に支柱を立てた。
そこで雨が降ってきたので、「花が咲くのが楽しみだね」と言いながら教室に戻って観察日記の細かい部分を書き足してもらった。
次の時間では算数で「数のわけっこ」に戻って足し算の勉強をした。
これをしておかないと二学期に繰り上がりのある計算が出てきたときに一気に苦戦することになる。
数のわけっことは、要するに「八は二と六に分けられる」ということを勉強するということだ。
これをマスターしておくと、たとえば八足す四が「八は二と六に分けられる。六と四を足すと十になるから、残りを足して答えは十二だ」と答えを出せるようになる。
これにも散々苦労しながらその日の授業は終わって、雨が降っていた分今日は皆水やりをせずに傘を差して帰って行った。
それからも晴れている日は毎日水やりをして、いつの間にかつぼみができるようになっていた。
花菜ちゃんが嬉しそうに「秋葉先生、朝顔のつるがのびてきて、つぼみがついてたの!」と朝の会で教えてくれた。
それを聞いて他の子からも「つぼみついてた!」という報告が相次ぐようになって、一年生の中でも早くに種まきをしたクラスの子の朝顔は花をつけていた。
「綺麗に咲くかなあ」と嬉しそうにしている様子を見て「楽しみだね、先生も楽しみだな」と話す。
毎日のように増えていくつぼみに皆が嬉しそうな顔をしていて、生活の時間になると皆が観察日記を持って教室を飛び出すようになっていた。
六月も半ばに入った雨の日、花菜ちゃんが「先生、朝顔花が咲いてたの! 皆のも咲いてたんだよ」と嬉しそうに言っていた。
皆の分まで見てくることがこの子の優しいところだな、と思いながら「よかったね、大事に育ててきたもんね!」と返す。
花菜ちゃんは他の子にも「楓ちゃんのも美咲ちゃんのも花咲いてたよ」と嬉しそうに教えてあげていた。
ーーそれなのに、今何でこんなことになっている。六月の後半、朝の会が始まる前に泣きながら花菜ちゃんが教務室に来た。
一緒に行ってみれば、そこにあったのは支柱が抜かれて踏み荒らされた朝顔だった。
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