第47話

日曜日が過ぎて、月曜日に学校に来た日に亮太君はいなかった。しばらくの間休むことは聞いていたのでそれを皆に話そうと教室に向かう。


「おはようございます」


「あー、秋葉先生途中から恵達のことみてくれてなかったでしょ、恵先生がどっか行くの見てたし美咲ちゃんも言ってたよ」


「そうだよ先生見てて欲しかったのにー。美咲赤軍で勝ったんだよ」


「恵白だったから負けちゃった」


「ごめんね、先生昨日ちょっと別のお仕事が入っちゃって一緒にいられなかったの。皆のこと見てたかったなあ。かっこよかっただろうな。いっぱいお話教えてね。


それで、亮太さんの事なんだけど、しばらく今日からお休みすることになりました。理由は詳しく話せないんだけど、おうちの都合です。


しばらくの間は会えないんだ。だからもしも伝えたいことがあったら一緒にお手紙を書きましょう」


皆からえー、残念と声が上がる。一ヶ月半をかけて、クラスの五人からそれくらい大事にされていたことが嬉しかった。


一時間目の道徳の時間にはしばらくいない亮太君のために何ができるか皆で話し合うことになった。


「美咲お手紙書きたいです、あと勉強したところの内容教えてあげたい!」美咲ちゃんから声が上がって全員がそれに賛同した。


その日は一緒に亮太君に向けて手紙を書いて一時間目が終わった。


それからもしばらくは亮太君は学校に来なかった。その分のプリントは皆で分担して書いてくれていた。


そして半月が経つ頃、亮太君がお父さんに引き取られて東京の学校に転校することが決まった。東京の特別支援級をお父さんと児童相談所の方が探してくれていた。


最後の日に学校に久しぶりに登校してきた亮太君を皆が取り囲んだ。


「皆さんにお知らせがあります。加藤亮太さんは、今日でこの学校から転校して東京の学校に行くことになりました」その声に皆がさみしがった。


皆で手紙を渡して、これまで勉強してきた内容を教えて、最後の一日を一緒に過ごした。


その日、帰りの会で「これまでありがとうございました。五月までしかいられなかったけど、すごく楽しかったです。お手紙ありがとう、皆の事忘れません」


と少しつっかえながらも最後まで亮太君は言い切って頭を下げた。


皆にタッチして、皆で固まって放課後に一緒に話しながら教室を出て行った。


一緒に外に出ると「秋葉先生、ありがとう」と言って皆と別れてお父さんを待った。


しばらくして来たお父さんは、「お世話になりました。ありがとうございました」と頭を下げて、二人で嬉しそうに手を繋いで一緒に歩いて行った。


亮太君に、安心できる場所ができた。目の前の壁はよじ登らなくても、周りの大人が皆でその大きな壁についたドアを探して、開けてくれた。


いつかまた、お母さんと、お兄さんと一緒に過ごせる時がくるかもしれない。


それでも今亮太君に安心できる、安心して生きていける場所ができたことで安心した。


車の中から手を振る亮太君に大きく手を振って、もう会えなくなる最初の児童を、”小さな大人”を、見送った。

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