第45話
児童相談所の職員の方二人は昼前に学校に到着した。
そこで資料に目を通し、体の傷を確認する。
「間違いないでしょうね。一時保護するにしても親御さんとお話させて頂きたいのですが」
「亮太さん、お母さん今日来てくれてるよね。お昼ご飯、どこで食べるって言ってたかな。外? 体育館?」
「体育館でシート広げて食べるって言ってた」
「じゃあ一緒に探しに行っても良いかな。怖かったら遠くから教えてくれれば良いよ」
頷いた亮太君と手を握って体育館に四人で向かう。
一通りの作業が終わった校長先生は素早く校庭に戻って児童の様子を見ていた。
体育館にはもう何人もの親と児童が一緒にいる。その中で見つけるのは難しいかもしれない。
「どこにいるか分かりそう? シート、何色かな」
「あそこの奥にいる。水色のシートのところ」
「分かったよ。ありがとう。亮太さんはちょっとこのお姉さんとお話してくれる?」不安そうに、それでも頷いた顔を見て一人の職員の方と亮太君が戻っていった。
残った職員の方と一緒にお母さんと思われる人のところに行く。
綺麗に詰められた色とりどりのお弁当。時間がかかりそうなことは見てすぐ分かる。それなのになんで。その気持ちを押し殺して言った。
「加藤亮太さんのお母様でお間違いないでしょうか」
その人は立ち上がって「はい、いつも亮太がお世話になっています」と頭を下げた。こんなに普通に見えるのになんでだ。こんなに素敵な母親に見えるのになんでだ。
「亮太さんの事に関して少しお話がありまして。少しお時間を頂くことは可能でしょうか」
はい、と言って母親は不安そうについてきた。空いた教室の一つに入って席を向かい合わせるように椅子を置いて座ってもらう。
「あの、亮太が何か、」心配そうにする母親に言った。
「こちらは児童相談所の近藤さんという方です」
その言葉で母親が固まって唇を噛んだ。その顔は悲しそうな亮太君そっくりだった。
「……申し訳ありません。亮太は小さな頃から育てにくい子で、相談できる人も周りにはいなくて、主人も単身赴任でこの子が生まれてすぐに東京に単身赴任になって。……あの子を見るとつい何でもできたお兄ちゃんのことを思い出してしまって辛くて、それでもそんなことは誰にも言えなくて……」
段々とその声が涙に濡れていく。
「大丈夫ですよ、お母さん。私は亮太君とお母さん、どちらものことを助けに来ました」
その言葉で母親が声を上げて泣き出した。
ごめんなさい、ごめんなさい。愛したいのに、愛しているはずなのにあの子にそれができないんです。
その泣き方は亮太君にとても似ていた。
母親は一時保護をすぐに認めた。
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