安心できる場所はどこか

第39話

その日の授業は特に滞りなく進んで、午後は亮太君にとっては待ちに待った運動会の応援の練習が始まった。


学年合同で行うため、皆が混ざれているか不安になってしまう。


特に楓ちゃんは大丈夫かな。まだ話せないことはクラスの子もまだ知らないだろうし知っていても対応できるとは限らない。


不安になりはしたが、楓ちゃんは恵ちゃんと固まって一緒に動いていたのでそれからは安心して皆の指導に入った。


それからも様子を見ている時は二人が一緒にいることが多く、仲も良さそうにしていて道徳の時間があってから恵ちゃんがよく話しかけてくれているな、と思った。


合同の授業が終わっていつものクラスに皆が戻ってくる。「疲れたー」と皆が言いながら教室に戻ってきた。


「お疲れ様。皆いつもと違う子達と一緒にいたから疲れたね。皆覚えられたかな? まだ全然できなくても大丈夫だよ、これからも練習の時間はあるからね」


それには当然のように良い返事が返ってきて安心する。


最後の授業は国語だったのでいつものようにひらがなを練習して時間が進んだ。


恵ちゃんの連絡帳には「場面緘黙症で話せない子にも積極的に話しかけている様子が見られ、学年全体の練習でもその子が孤立することなく動けていました」と書いておく。


同じように楓ちゃんの連絡帳には「同じクラスにいる子が積極的に話しかけてくれていたため、学年合同練習でも輪の中に入って練習できていました」と書いておいた。


その日はそのまま皆が帰る時間になって、疲れた皆はいつもよりも少しだけ元気のない声で「さようなら」と言って帰っていった。


その日以降も運動会の練習は進み、聡君も一日目の練習は逃した物の皆のサポートもあって無事に練習に追いついていた。


五月も半ばに入ればすぐに運動会がある。それまでの期間に応援の練習やリレーの練習が入ってきてかなり忙しくなる。


また家庭でも応援用のペットボトルの準備をしないといけないため、プリントを渡しても心配だった恵ちゃんに関しては連絡帳に準備をお願いすることを書いておいた。


そんな忙しい時期、皆は疲れながらも運動会を楽しみに準備してきた。


皆運動会が近づくにつれて嬉しそうに練習の成果を昼休みに見せてくれるようになった。



それでも、一人だけ、運動会が近づくにつれてどんどんと顔が曇っていく子がいることに気付いてしまった。


一緒に同じ方向を見て進みたい。そう思っていた美菜実に、声をかけないなんて事はできなかった。

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