第38話
ゴールデンウィーク初日に入った。
ゴールデンウィークなんて大学教授にはあってないようなものだ、研究で終わってしまう、なんて神崎先生はちょっと不満げに言ってたな。
そう思いながら、間違えていると教えてもらった日ぶりにその番号に電話をかけた。
「秋葉です。ご無沙汰しています。その後のお話ができればと思いましてご連絡を差し上げました」
そう言うと神崎先生は時間があればまた研究室に来なさい、と言ってくれた。
そのまま準備して大学に向かう。半月ぶりにその研究室の扉を叩いた。
「どうぞ」というその声は変わらず温厚なまま。「秋葉です」部屋に入ってそう言うと先生はあの日と変わらず紅茶を出してくれた。
「その顔からして上手くいったようですね」全て分かったように先生は言った。
「はい、児童も一人は最初のうちは来てくれなかったんですが、話し合いの上で来てくれることになりまして。
それからもう一度改めて全員に謝罪して児童のしたいことや好きなことがやっと知れました。
今思えばあの時の私はあの子達を障害児としてしか見ていなかったんだと思います。あの子達は子どもじゃない、小さな大人でした」
自信を持ってそう言えた。自分の誤りももう許されたことだ。その上でできるようになった事があるんだ。そう思うと少し姿勢が良くなった。
「小さな大人、ですか。確かにそうだ。自分が子どもの頃のことなんてもう私にとっては何十年も前ですが……、少なくとも何も分からない無知な子どもではありませんでしたね」
「そうですね。私もそう思います。……それで、その子のうち一人に関しては自分の親に反駁してまで学校に来ることを決めてくれました。
ご家族の方が『この子は障害者で一生障害と一緒に生きていくんだ』とおっしゃったので、『この子はかわいそうな障害者ではありません』とお伝えしたところ、
お母様に反論してまで教室に来てくれました。全員から伝え方が悪かったとの謝罪も受けました。
自分が間違うわけがないだなんて浅はかな考えで以前ここに来たことが恥ずかしいくらいに、あの子達は大人でした」
「そうですか。それは良かった。それに秋葉先生もいいことをおっしゃいましたね。『この子はかわいそうな障害者ではない』か。
私も勉強させていただきました。研究の場にいるとどうしても実地でしか分からないことが見えませんからね」
「いえ、そんなお言葉をいただけるなんて……でも、私はあの子達と一緒に成長したいと思っています」
嬉しそうにした先生は部屋の奥から「大事にとって置いたんですよ、この良い機会にぜひ」と高そうなお菓子を出してくれた。
二人でゆったりした時間を過ごして、美菜実は春の暖かい陽気を受けながら帰った。
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