第36話

「先生は、お父さんもお母さんも小学校の先生でした。だから当たり前みたいに小さい頃から先生に憧れて、学校の先生になりたいなって思って大学に入りました。


そこで”特別支援教育”っていうものを見つけました。ここにいる皆みたいな、特別な個性を持った子と一緒に勉強するための勉強です。


大学を卒業して、今年の春から皆と一緒に先生一年目をスタートしました。



……でもその時、皆が先生を嫌だなって思ったように、先生も間違えていました。


皆は特別な個性があるんだから守ってあげなきゃいけないんだ! それが皆のためなんだ! って思っていました。


皆のためにしてあげられることはなんだろう、何をしてあげたらいいんだろう、って”してあげる”事ばかりをたくさん考えていました。


でも、最近になって皆さんに言われて、どうしたら良いか分からなくなりました。


先生は、大学で一緒に勉強してくれていた先生のところに相談しに行きました。


そうしたら、先生の先生も私が間違っているよって教えてくれました。


その時初めて、『皆は子どもなんかじゃなくって、たくさんのことを考えている小さな大人なんだ』って気付きました。


だから間違えていたことを反省して皆と話し合いをしました。


今の先生の夢は、皆さんと一緒に、皆さんが楽しく自分やお友達と一緒に過ごせるようにすることです。好きなのは皆さんです。


皆さんがいつか素敵な大人になってくれたら、それが先生の幸せです。……あ、あとちょっと好きなのはゲームかな」



最後に笑うと皆からも笑いが起きた。


「恵もゲーム好きだよ!」と声が上がる。


亮太君は立ち上がってもう一度謝ってくれた。

「先生、前はごめんなさい。先生も一年生だったのに、先生に嫌だって伝える方法を考えなかった。好きって言ってくれてありがとう」


それに引っ張られて皆が立って頭を下げる。


謝る事なんてすごく勇気が要るはずなのに、それにもう一度謝ってもらったのに。


美咲ちゃんからは「先生が美咲はかわいそうな子じゃないって言ってもらって嬉しかった。ごめんなさい」と言われた。


「ありがとう。もう怒ってないし先生もごめんなさい。これからは一緒におんなじ方向を見て一緒に勉強するから、なんでも相談してね」


それに良い返事が返ってきて、自分の失敗が目の前の子達まで大人にしたと思うと不思議な気分だった。


今ならもう大丈夫。もう、間違うわけないなんて思わない。


私も間違えるんだ。でも、間違えても皆と一緒に一歩ずつ進んでいける。この地域では一年ごとに担任の先生が替わる。



これから一年間、すごく長くて短い時間を、目の前のこの子達と一緒に成長していきたい。

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