第35話
「じゃあ次は恵さん。読めそうかな?」
それに恵ちゃんは何も言わずに立って読み始めた。
「恵は、アイドルの女の子達がいつも楽しそうに笑いながら歌って踊っているのを見るのが大好きです。
いつもテレビを見て、いろんなことについてお母さんと一緒にたくさん話しています。
だから、大人になったらアイドルになりたいです。アイドルになって、楽しそうだな、私もやりたいなって思ってもらえるようになりたいです」
その言葉でまた拍手が上がった。
途中で少しだけ脱線してしまったけど、おそらくアイドルの出ているテレビの話がしたかったんだろう。ADHDの子は発想を飛ばしてしまいやすい。
それを考えれば、ワークシートの欄が違う分最後に将来の夢に戻ってこられたのは上出来だ。
「恵さんありがとう。テレビはアイドルの人が出ているのを見てるのかな?」
「ううん、それ以外もいっぱい見てる」
「アイドルの子が出ているときも見ているの?」
「見てる、一緒に踊りの練習してる」
「それは素敵だね、今すごく素敵だと思ったからそれもちょっとだけプリントに書いておいてくれる?」
「はーい」
そう言って恵ちゃんの鉛筆が止まったのを確認してから次の亮太君を呼んだ。
「じゃあ最後は亮太さん。読めそうかな?」そう聞くとはい、と良い返事をして亮太君が立った。
「僕の好きなことは走ることです。小さい頃からサッカーのクラブに入っていたので、サッカーをやるのも好きです。
えっと、将来の夢はサッカー選手になることです。日本代表の選手になって、他の国の人とも試合をしてゴールしたいです。
そのために、まずは運動会で一番を取れるようになりたいです」
ありがとうございました、と言って亮太君が椅子に座り直す。皆から拍手が上がった。
発語が少し不安定で聞き取りにくい部分もあったが十分すぎるくらいによく話せていた。
「亮太さんありがとう。すごく素敵な夢だね。サッカーのクラブにも入ってるんだね。
走るのも好きなのはすごくかっこいいね。運動会はまた五月にあるからその時は皆で亮太さんを応援しようね」
そう言うと皆から良い返事がして、「美咲違うクラスだけど見てるね!」と大きな声が飛んだ。
特別支援級の子は元々自分のクラスを別に持っている。運動会では自分のクラスに戻って参加することになる。皆元のクラスのこともしっかり分かっていた。
全員の好きな物も将来の夢も聞けた。
これでまた皆とお話しできることも、皆のために考えられることも増えるんだ。
嬉しくなりながら一旦プリントを回収する。
余った時間で何をしようか、と考えていると恵ちゃんが手を上げていた。
「恵さんどうしたの?」
「先生の好きなことと将来の夢は何ですか」
「恵ちゃん、秋葉先生はもう大人だから将来の夢とかないんじゃない?」
美咲ちゃんから指摘が入る。
自分でもそんな質問が出てきたことには驚いた。自分の、将来の夢。大人になって先生になって、そこで一段落付いたような気がしてた。
でも、そうじゃないよね。そう思って口を開いた。
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