第33話

その後の生活の授業では皆の好きなことや将来の夢を話す時間を取った。


皆黙々とワークシートを埋めていく。


”その子達が何が好きで何がしたいと思っているのか、秋葉先生は知っていますか?”それを知れる機会がやっと来た。


この子達は確かにまだ子どもだけど、大人が思ってるよりもずっと子どもじゃない。皆のこともっと知りたいな。


そう思っていると、児童が考えながら書き進めていることを見て嬉しくなる。


間を縫って皆の紙を見に行くと少し恥ずかしそうに隠しながらも皆ワークシートを埋めていた。


しばらくして、タイマーが鳴って発表の時間が来た。


皆書けているようなので発表に移る。


「じゃあ今日は美咲さんからいつもとは逆の順番で言ってみようか。美咲さんは話せそう?」


「はい」と言って立ち上がった美咲ちゃんは嬉しそうに紙を持って読み始めた。



「美咲は、勉強することが大好きです。知らなかったことを新しくしれるのが嬉しいので、もっと勉強したいと思います。


算数で一から九まで習ったので、今度は計算も頑張りたいです。


今の美咲の将来の夢は、看護師さんになることです。小さい頃行った病院で看護師さんがとても優しくしてくれて、苦しかった事がちょっとなくなったような気がしたからです。


看護師さんになって、あの時の私みたいに小さな子に優しくできるようになりたいです」



美咲ちゃんは皆が聞き取れる速さで最後まで読んでくれた。


紙を置いて美咲ちゃんが座った。皆から拍手が上がる。


「美咲さんは勉強が好きなんだね。いつもすごく熱心にひらがなや数字を練習してたもんね。看護師さんになりたいと思った理由も素敵だね。


いつかまたその看護師さんに会えると良いね」


「うん!」嬉しそうに笑う美咲ちゃんの姿は昨日の怒りや悲しみの表情ではなく、希望に満ちた表情だった。それがまた嬉しくなる。


「じゃあ次は花菜さんだね。自分で書いた文字は読めそうかな?」


「ちょっと難しいです。ゆっくりでもいいですか?」


「もちろんいいよ。ゆっくり確認しながら読んでみようか。皆も花菜さんのペースに合わせてゆっくり聞いてみましょう」


皆から返事が返ってきたところで花菜ちゃんが立ち上がった。


「花菜は、お母さんと一緒にお花やお野菜を育てるのが好きです。綺麗に咲いたお花を見るととっても嬉しい気持ちになります。


だから大人になってからもお花を育てて、それを見てくれた人が嬉しくなるような事がしたいです」


ゆっくりゆっくり、それでも最後まで諦めずに花菜ちゃんは読み切って安心したような顔で座った。拍手が起きる。


「花菜ちゃんはお花やお野菜を育ててるんだね。確かに先生もお花を見るとすごく嬉しい気持ちになるな。素敵な夢だね。これから先、皆で朝顔を育てることもあるから楽しみにしててね」


そう言うと花菜ちゃんは一層嬉しそうな顔をして頷いた。

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