第31話

その日の一限は道徳だったのを変更して、先生にどうしてほしかったのか、先生はどうして欲しかったのかを伝え合う場になった。


「ーーそれで、美咲は毎回おんなじようなことを言われるのがすごく嫌だったので、一回言ったらおんなじことはあんまり言わないで欲しいです」


「なるほど、美咲さんは同じ事を何度も言われると嫌なんだね。分かったよ、これからは気をつけるね。でも先生が同じ事を何度も言ってしまったのは何でだと思う?」


「それは美咲がおんなじような事何回もしたからだから、それは悪かったと思います」


「そっか、ありがとう。先生も、美咲さんが大人になったときに、自分ができることを人にも同じようにできて当たり前って思われるのが怖かったんだ。この気持ちは分かるかな?」


「わかりません」


「いいよ、教えてくれてありがとう。たとえば、美咲さんは音読がすごく上手にできるよね。だから他の子の間違いやできていないことが目に付いちゃったんじゃないかな。あってるかな?」


「合ってます、美咲できるのに他の子は間違ってるし聞こえないから気になって言った」


「うん、そこまでは大丈夫だね。これから美咲さんが大人になって社会に出たら、美咲さんのようにいろんな事ができない人にたくさん出会うことになるんだよ。そういうときに同じように全部厳しく伝えてたらどうなるかな」


「嫌なやつになる……?」


「うん、厳しく言われたらこの人素敵だなっては思わないよね。人によっては、”上から目線で嫌だな”って思う人がいるかもしれないね。でも優しく教えてくれたら、この人素敵だな、この人みたいになりたいなって美咲さんが思ってもらえるようになるんじゃないかなって先生は思ったんだ。これからは何度も言わないように気をつけるけど、先生の思ってたことも伝わったかな?」


「わかりました。これからはできるだけ優しく言うようにします」


「ありがとう。他に先生に伝えたいことがある子はいるかな?」


楓ちゃんが手を上げた。手元にあるプリントを見て欲しいらしい。「楓さん見て皆にお話ししても良いかな?」と聞くと頷いたのでプリントを借りて読み上げる。


「先生が道徳の授業で挨拶の話をしてくれたから他の子が話しかけてくれるようになりました。嬉しかったです。それと、黒板消しをやったのはごめんなさい。私も止めなかったので同じように悪かったと思います。先生がどんな気持ちになるか考えていませんでした」


「楓さんありがとう。楓さんはお話しできるようになって嬉しかったんだね、先生も皆と話せるようになって様子を見て嬉しかったよ。それからごめんなさいもありがとう。先生も悪いところがあったから、いやな気持ちになったときにそれを伝えるやり方だけは今度から気をつけようね」


そう言うと聡くんの手が上がって「あれやったの俺です。ごめんなさい」といってくれた。他の児童からも次々に謝罪が飛んできた。


「聡さん、皆さん、きっと言うのは緊張したよね。謝ってくれてありがとう。


先生も悪いところはあったので、嫌なことがあったときにそれを相手に伝えるやり方についてだけは皆で決めましょう。


嫌なことがあったら、できるだけその時に本人に伝えること。本人がいないところで陰口を言ったり、人が怪我をするかもしれない方法でやり返すのは止めましょう。


陰口は特に仲良くなれたような気分になっちゃうけど、それは仲良くなるためのやり方としては全然正しくないので止めましょう。


自分が嫌なことをしちゃった時にどうやって伝えられるのがいいか考えてみてね」

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