第28話
机で向かい合った瞬間に恵美子と名乗った美咲ちゃんのお母さんが話し始めた。
「美咲から話は聞いています。障害上仕方のないことで何度もこの子を叱ったそうですね。話も最後まで聞いてくれなかったと話していました。
その上休み時間に他の子と話しているところを遮ったそうで。
……分かっていらっしゃると思いますがこの子は発達障害です。
障害があるからこそ、その学級に入れて先生によく見てもらおうと思って、行かせたくなかった病院に連れて行って診断を受け入れたんです。
それなのにどうしてうちの子の言うことを受け入れないんですか。障害を持つ子どもがどれだけ苦労しているか先生はご存じないんでしょうか。
まさかとは思いますが障害を個性だとお思いでしょうか。それなら発達”障害”なんていう風には呼ばれません。この子には困難なことがあるから支援を必要としているんです。
先生はどうお考えになっていらっしゃるんでしょうか」
その声は怒りに満ちていた。話しきって目の前の人はため息をついた。
美咲ちゃんはどうだ、これで悪かったのがわかっただろう、とばかりにこっちを見ている。
「お母様、美咲さん、まずは謝罪させていただきます。美咲さんや他の児童に関して十分でない指導があったことは事実です。
本日の教室でも児童に伝えさせていただきました。
……発達障害に関してですが、教育現場では発達障害は個性として認められるものとされています。
発達障害と呼ばれる人は、その特性によって日常生活に困難を持っている人を指します。
このクラスではその困難を取り除くことで発達障害を個性として認められるようにしていくことを目標としています。
その上での支援が至らなかった点で誠に申し訳なく思っています」
その言葉で美咲ちゃんの顔が少しだけ変わった。
「美咲さん、前は何度も同じ事を言ったり最後まで話を聞いてあげられなかったりしてごめんなさい。その後の話も先生はちゃんと聞けなかったよね。
もう一度、クラスに来てくれるかな。そうしたら今度は皆で気持ちよく過ごせるクラスにできるように先生もたくさん考えるから」
また美咲ちゃんの目が変わった。
さっきまでざまあみろ、と言わんばかりの顔をしていた。
でも今は違った。美咲ちゃんは一度自分が謝ったことで嬉しそうにしたが、「もう一度クラスに来て欲しい」と言った時には少しだけ前向きな顔をしているように見えた。
来て、くれるかな。もう一度、ちゃんと謝りたいんだ。その気持ちは届いているかな。
美咲ちゃんが口を開いた。
「美咲、」その言葉を母親が遮った。
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