第26話

お願い、今日だけでも良いから全員来てて欲しい。そう思っていつもよりも更に早く学校に着いて時間まで待ってみても欠席の電話は来なかった。


無断で欠席されるほど私は見放されたか、それか今日だけでも来てくれたのか。どっちだ。



美菜実は初日よりも緊張して教室に向かった。足取りは重い。でも。先生が私のことを応援してくれた。私の間違いを指摘してくれた。


時間を割いてまで私がここまで信じて疑わなかったものを折ってくれた。今日行けなかったらもう私は先生に顔向けできない。だから私は絶対に自分の中の緊張なんかに負けちゃいけない。



教室のドアをゆっくり開けた。中にいるのは、ーー五人。美咲ちゃんはいなかった。



よかった、一人は来てくれた。私から謝らなきゃいけないことがあるなんてこの子達は知らない。私があのままだとまだきっと思っている。それなのに重いランドセルを背負って、憂鬱かもしれない一日を思いながら朝早くから準備してきてくれた。それだけでいい、それが嬉しい。ありがとう。



でも美咲ちゃんは来てくれなかった。私はそれを重く受け止めなきゃいけない。


「朝の会を始めます。皆さん席に着いてください」


昨日休んでいた聡君は渋々だったが、それでも席に着いてくれた。


「今日は先生からお話があるので聞いて欲しいです。先生から皆さんに謝らないといけないことがあります」


その言葉で全員がしっかりとこちらを向いた。




「先生は、皆さんが特別な個性を持った子達だから、それと上手く付き合っていくためのお手伝いをしなければいけないな、と思ってここにきました。


でも、皆さんが先生の事を嫌がっているのを見て、それは間違っていたんだなって知りました。


たとえば聡さんは、きっとひらがなも数字もドリルに練習したかったんだよね。でも先生は聡さんのためになるのはノートに書いてもらうことだ! 


慣れてきたらドリルにすれば良い! って思って勝手にノートに練習するように言いました。その時、聡さんにどっちが良いか聞く事をしませんでした。様子も見ませんでした。


それが間違っていたんだなって今思います。


今皆さんが何が好きで、何をしたいのか、どんな風になりたいのか、それをもっと聞いて、必要な事を一緒に勉強すれば良かったなと思っています。


だからこれから先生はもっと皆さんの事を見て、皆さんのお話をもっと聞いて、皆と一緒に成長する先生になりたいと思います。


先生はもう大人だけど、先生としては皆と同じ一年生です。だからこうやって失敗してしまうこともあります。ごめんなさい。許してもらえますか? 良いよって人は手を上げてください」




五人が手を上げた。少し安心する。それでも、このクラスにはもう一人そろわなきゃいけない。

私が悪かったのは充分すぎるくらい分かった。向き合うのは、同じ目線で物を見るのは全員がそろってからだ。


そう思って朝電話をかけてみても美咲ちゃんの家には繋がらなかった。

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