第24話

「秋葉さんには『児童に寄り添って同じ目線で物事を見る』という視点が欠けていますね。


児童の後ろにある特性やその将来ばかりを見ていてその子が今実際に何を見ているのかを考えていない。


大体秋葉さんはその子一人一人がどんな子なのか分かって接していますか? 確かに話を聞く限り特性に関してはそれを考えて接しているようです。


ですが、もっと単純にその子が何が好きで何がしたいのか、といったその子自身の障害以外のことをどれくらい知っていますか?」





美菜実はまた頭をぶん殴られたような気分になった。私これまで、学生の時も、”一人一人に向き合う”ことしか考えてこなかった。


児童に寄り添うことだって本当は当たり前にしなきゃいけないことのはずなのに、そんなこと一切考えてこなかった。




大体、私あの子達の好きなものなんて何一つ知らない。少人数の教育なのにクラスの子が何を好きで何を目指しているのか、何も知らない。


それって普通の教室でもきっと先生達はよく見ているようなことなのに、特別支援でたった六人しかいない子のことを何も知らない。


障害のことしか知らない。性格くらいしか分かってない。しかもそれだって自分に馬鹿なことをしてくる子供じみた子だって事くらいだ。

もう三週間も、一ヶ月弱も経ってるのに全然考えてもいなかった。




私はあの子達が障害をはねのけていけるようにって、個性として認められるようにってそればっかりで人としてあの子達を見ていないんじゃないのか。




それって、それって上から目線以外の何物でもない。


”障害に対する偏見なんてもうどこにもない”って思ってたはずなのに、私はあの子達は特性があって大変なことが多いから助けて”あげなきゃいけない”と思ってた。


それって偏見でしかない。あの子達が自分で立つ姿を見守っていなきゃいけなかったのに、手を貸すふりをしてとっっかりをあの子達から奪ってただけだ。


そんなのいくら小学一年生だからって、いくら六歳やそこらだからって、気付かないと高をくくってる方がおかしい。


いつだって一番差別をしているのは”自分に差別なんてない”と思っている人だ。


あの子達が気付いてそれを拒否したのは当たり前のことなんだ。だって私はあの子達のことを見ているつもりで実際”普通”の型に押し込めようとしていただけなんだから。


美咲ちゃんの言う通りだ。私はあの子達のことを都合良く障害者として見て、助けてあげてる気分になって自分に酔って、都合の悪い方にあの子達が動き始めたら今度は”ただの子どもなんだから”って都合良くあの子達の個性を無視して健常者にした。


子どもらしい、馬鹿馬鹿しいなんて、馬鹿馬鹿しいのは私の方だ。そんなやり方をされて尚気付かなかった私の方がよっぽど馬鹿馬鹿しい。


ここに来て、それでも私はきっと自分に都合の良いことを先生が言ってくれるって勝手に期待してた。この先生のことまで都合良く利用しようとした。私がここまでしてきた事って全部間違っててただの自己満足だ。


美菜実は頭を抱えた。私があの子達に押しつけてきた事って、あの子達に一ヶ月近くやらせてきた事って全部全部間違ってる。最悪だ、本当に悪かったのは私なのに考えなしに叱りつけて誠意のない謝罪をした。

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