第22話

次の日から美咲ちゃんと聡君が学校に来なくなった。電話口で「先生に会いたくないということなんですがどういうことですか、うちの美咲に何をしたんですか」と問い詰められる。


申し訳ありません、明日からまた来て貰えるようにお話頂けないでしょうか、と頭を下げる。


でも本当は謝るつもりなんてどこにも無いし心の中で謝ってもいない。だって悪いのは勝手に言い出して勝手に来なくなったあの子達だ。それでも私は大人で先生だから謝らなきゃいけないんだ。こんな理不尽にも耐えなきゃいけないんだ。仕方ない、モンスターペアレントとその子どもなんて放っておこう。



他の四人は教室には来ているが、ーーもしかしてこれは学級崩壊か。




なんでだ、私はこの子達のことを思って何でもしようとしてきたのに。その子の将来のためになることだけをしてきたっていうのになんでそれが伝わらない。


大体なんで子どものいじめじみたものに自分が巻き込まれなきゃいけないんだ。


馬鹿馬鹿しいし手段だって卑怯そのものなのに、なんでか私が折れて親御さんに一度謝らなければいけなくなったじゃないか。


そんなのあの子達の思うつぼだ。そんなことこれ以上してたまるか、だって悪いのはあの子達なんだから。私の思いやりを受け取りさえしないあの子達なんだから。



昨日の首謀者はどうやら休んでいる二人だったようで、残りの四人は指名すれば答えてくれた。


この子達はまだマシか。でも残りの二人のことはこのままにしてはおけない。そう思って音楽の時間、専門の先生にバトンタッチしてから空いた時間に大学時代の教授に電話をかけた。




「ーーそれで、児童が全然話を聞いてくれなくて不登校になりかけているような児童までいて。学級崩壊を起こしかけているような状態です。


私としては児童の将来のためにあの子達と向き合って来たつもりなのに全く児童には伝わっていないようです。


合理的配慮と思われる配慮もしてきたはずなのに児童からしたら私は”都合良く自分を好いてくれる子どもとして見ている”だそうです」



全く馬鹿馬鹿しいようなことまでされて。そう話すと電話口の相手は「今日の授業が終わったらこっちに来なさい」と言った。



まさか先生まで私が間違ってるって言おうとするのか? その一瞬冷たくなった声に思った。

でもそんなことないか。先生いつも優しかったし。そう思いながらその日の授業を終わらせてから所用のためとして学校を出た。


四年間通っていた大学も久しぶりだ。あの教授の研究室は確か、と探しながら部屋にたどり着いた。


先生なら私のことを認めてくれるはず。だって四年間の間だって、卒論の時だって助けになってくれて「あなたはきっと良い先生になる」って言ってくれたんだ。


先生なら私のことを分かって、それは大変でしたねって、児童の中にも扱いにくい子は多いんですねって、言ってくれるはず。




だって私はこんなにもあの子達のことを見てきた。向き合ってきた。何も間違ったことはしていない。それだけは確信を持って言える。


どのときのどんな行動もあの子達のためを、あの子達の将来を思っての行動だ。それに間違いはない。だ


から先生も認めてくれるはず。そう思って研究室の扉をノックした。

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