第21話
その日の最後の授業の教室に戻って来たとき、教室のドアが少し開いていた。ーー上には、黒板消し。こんな昭和みたいないたずらをまだやろうとする子どもがいるのか、だから全く子どもは馬鹿馬鹿しい。そう思って黒板消しを手で取って教室に入った。児童達はひっかからなかった美菜実を見てつまらなさそうな顔をしている。なんでこんなまねするんだ、私は先生として親切にしてあげてるのに。
「誰ですかこれを置いたのは」
答えるものは誰もいなかった。もう一度聞く。
「誰が置いたんですか、そう聞いています。聞こえていますか。置いた人は手を上げなさい」
こればっかりは叱らなきゃいけない。声を大きくしてもう一度聞いても答える人は誰もいなかった。
「卑怯なまねをして先生を困らせようとしたのは誰ですか。こういうことをして困る人がいることを考えられないんですか。見ていて止めなかった人も、これを取ろうとしなかった人も同じように悪いことをしています。手を上げてください」
「先生は自分の行動で困る人がいることを考えられないのになんで先生のために考えなきゃいけないんですか」そう聞いてきたのは聡君。
どうして、あなたはそんなことするような子じゃなかったでしょう。なんでそんなことしたの。
そう思っている間に他の児童も賛同し始めた。
「先生の自己満足に付き合ってるのバカみたいで美咲嫌です。他の先生に変えてください。秋葉先生は私達のこと都合良く自分のことを好きになってくれる子どもとしてしか見ていないのに何で私達が先生として大事にしなくちゃいけないんですか」
「僕先生から見下されてる気分ですごく嫌です。これは先生に向けての僕たちが嫌な思いをしてるって言う意味のメッセージです。受け取ってもらえないなら僕明日から学校休みます」
「私も」「あたしも」「俺も」楓ちゃんまで頷いている。
なんで、なんで、私はあなたたちのことを思ってここまで勉強してきたのに。
「これがメッセージだっていうんですか。そんな卑怯なやり方で人の気持ちが変わると思ったんですか」
「私達にどうして欲しいんですか秋葉先生。美咲達が直接嫌ですって言ってもどうせ先生”あなたのためにしてるのになんで”とかって言うんでしょ。もう問題に答えないことだってしたし、さっきの休み時間も聞こえるように言ったし。できることはしたのに先生全然気付かないじゃん。先生ってやり方が卑怯とかそういうこと言って責任逃れしようとしてるだけじゃん。自分のしたこと振り返ってから言ったんですかそれ」
だって私はあなたたちのためにここまでしてきたっていうのに。責任逃れだなんて、そもそも責任を取らなければいけないような、こんなやり口でおとしめられなければいけないようなことはしていないのに。それでも全員がそれを止めなかったって言うのか。
「先生は教務室に戻ります。反省したら教務室まで謝りに来なさい。あなた達のやったことは卑怯です」
それだけ言って教室を出た。教室からは「だってさ、やっぱり私達のこと都合良く好きになってくれる子どもだと思ってたんだよ。謝るのなんてやだし遊んでよ」という言葉が聞こえた。
結局その日誰も謝りには来なかった。形だけの帰りの会で「もう一度自分のしたことを考えなさい」と言ったが子ども達の顔は反省などしていなかった。
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