第17話

「美咲さん、次の文章を読んでください。さっきも言ったように学校は勉強だけの場所ではないし、道徳もすごく大切な勉強なんだよ。このままだと美咲さんは道徳の成績が悪い子になっちゃうな。


道徳ができないと勉強がどれだけできても人に信頼してもらえるような素敵な大人にはなれないの。


人の気持ちを考えることは、考えてみた結果がもし間違っていても傲慢ではないよ。考えてみることがまずは大事なことで、それが間違っていてもいいんだよ。


分かってもらうのはまだなかなか難しいかもしれないけど、先生はこういう考え方なんだなって覚えていて欲しいな。


それから、人にここはそうじゃないって言うんだったら、その分美咲さんは上手に読めるかな?」




そう言うと美咲ちゃんは大きな声で間違うことなく早口で最後まで話しきった。どうだ、私は間違えてないでしょう、と言う顔でいる。




そこに「美咲ちゃん、早すぎてついて行けなかったからもう一回読んでください」と花菜ちゃんが言った。


美咲ちゃんは「なんで? 美咲自分で聞き取れる速さで読んだよ? 聞き取れなかったなら自分で読めば良いじゃん」と怒りで顔を赤くした。花菜ちゃんは怖がってこちらに助けを求めるような目をしている。




「美咲さん、今ちょっとびっくりして怒っちゃったよね。花菜さんには花菜さんが聞き取りやすい速さがあるんだよ。先生花菜さんの言い方は優しかったと思うな。


聞きにくかったらもう一回って言ってもいいんだよ、ただその言い方で相手の感じ取り方も変わるんだ。


美咲さんが今イライラしてるみたいに、他の子もいやな気持ちになっちゃったかもしれないなって想像できるかな?」




そう言うと今度はなんとか分かったようでゆっくり目に大きな声で最後まで読み切った。



「花菜さん、今度は大丈夫だったかな?」そう聞くと花菜ちゃんは頷いた。「美咲さんありがとう。人の気持ちも分かってくれたみたいで先生嬉しかったし読むのも上手だったよ。じゃあ次の文章を今度は亮太君から」



そう言って音読が二週目になる頃に文章を読み切った。



「じゃあここまでで読んだ内容から何が分かるのかを考えてプリントに書いてみましょう。先生の持ってるタイマーで五分計ります。その間に書いてみてね」



そう言ってタイマーをスタートさせた。最初は全員が黙々と書いていたが、次第に恵ちゃんが別のページを開いてみたり鉛筆を転がしてみたりと違うことをし始めた。



「恵さんは終わったのかな? まだ時間があるから、もう本当に何もないのかもう一度考えてみよう。たとえばだけど、自分が挨拶をしたときの体験やその時思ったことでもいいよ。このお話は外で出会った人との挨拶のお話だけど、おうちの人にしている挨拶があったらそういうものでもいいよ」


そう言うと恵ちゃんは元のページを探し出してまたプリントに書き始めたし、他の鉛筆が進まなくなっていた子達も新しいことを書き始めた。


いろいろ大変なところはあるけど今のところなんとかやれてるし大きな問題もない。ヒヤヒヤしたけど美咲ちゃんも納得してくれたみたいでよかった、これでとりあえず今日は上手く進められそうかな。


そう思っているとタイマーが鳴った。

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