第16話
「本当の事を言うのも大事じゃん。だいたいその子の気持ちなんて分かるわけないのに、そればっかり考えてなきゃいけないなんてそっちの方が美咲おかしいと思う。
だって美咲はおんなじように言われても悲しくもならないし焦らないもん。勝手にその子の気持ち考えてこの言い方がいいはずって思うって『傲慢』ってやつじゃないの?」
美咲ちゃんは自閉症の特徴の一つである「人の気持ちが推測できないこと、共感の苦手さ・自分の考えた論理を信じるために他の常識が受け入れられないこと・難しい言葉を簡単に使いやすいこと」がよく当てはまっているようだ。
美咲ちゃんの頭の中には今言ったような論理ができていて、それ以外の論理ははねのけている。でもそのままじゃいくら勉強ができても成績が良くても人に寄り添えない大人になってしまう。勉強よりも共感の方がよっぽど社会で必要とされる。そう思って少し声を大きくして言った。
「美咲さん、確かに本当の事を言うのも大事なことではあるよ。でも他の人の気持ちを考えられないのは良いことだとは先生は思わないな。
他の子の気持ちはきっと完璧には分からないけど、それでも考えてみて相手が傷つかないようにするのがとっても大事なんだよ。
美咲さんは悲しくならないかもしれないけど、他の子は悲しくなるかもしれないの。そのままでいたらどうなるかな。
皆美咲さんが嫌なこと言ってくるって思ってお話に来なくなっちゃうかもしれないよ。そうしたらどんな気持ちかな?」
「それでも美咲いいもん。だって友達作りに学校に来てるんじゃないもん、勉強しに来てるんだもん。勉強してテストで良い点取れればそれでいいもん」
「美咲さん、小学校は勉強だけするところじゃないよ。今やってる道徳の授業みたいに、他の子と上手に生活していくことも小学校ですることなんだよ。
だからその考え方は少し先生違うと思うな。美咲さんの気持ちは分かったけど、他の子と一緒に過ごす練習でもあるから、美咲さんはまずは他の子がどう思うか考える訓練をしようね。
そのためにまずは声に出す前に一度考えてみることにしよう。相手が嫌な気持ちにならないように、できるだけ優しい言い方を考えてみてね。できるかな?」
「先生が何言ってるのか全然わかんない。美咲この後の文章読みたくない。美咲勉強しに学校に来てるのに道徳なんてやっても勉強にならないじゃん。
これだって挨拶は大事ってことを伝えるためにこんなに長い文章書いてあるし。挨拶は大事ですよって先生から一言言えばいいだけなのに、その一言の代わりに何でこんなに書いてあるのかもわかんない。美咲もう読まない」
こうなってしまえば困るのはこっちだ。いくら特性があるからってさすがにこれはわがままが過ぎるんじゃないか。自分の気持ちで怒りそうになってその言葉を止めた。叱るときは自分の気持ちを乗せちゃいけない、きちんと説明してあげなきゃいけないんだ。
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