第15話

「秋葉先生、どこ読めば良いの?」やっぱり恵ちゃんは注意がすぐに逸れてしまうらしい。


「さっき亮太さんが読んだところ覚えてるかな? 五ページの一行目を亮太さんが読んでくれたんだよ。恵さんは次の文章から丸がくるとことまで読もうね」


「はーい」と言って読み始めたのはさっき亮太君が読んだところだった。「恵ちゃん先生二行目からって言ったじゃん。亮太君が話してたの聞いてなかったの?」とすかさず美咲ちゃんから厳しい声で指摘が入る。


「恵さん、その隣の文章から読んでほしいな。その文章はさっき亮太君が読んでくれたところだよ。自分の順番が来るなって思ったらよく聞いて待ってようね。


それから美咲さん、教えてくれるのはすごいことだけどもう少し優しい言い方ができると良いと思うな。たとえばだけど、今先生が言ったみたいに『そこじゃなくて隣の文だよ』って言えると恵さんも気持ちが良いんじゃないかな。ちょっと考えてみてね。じゃあ次は楓さんの番なので先生が読みます」と言って文章を読み終えた。


「次は花菜さん。ゆっくりでも良いから読んでみてくれる? 間違えても良いよ」


そう言うとゆっくりゆっくりと文章を読み始めた。いくつか単語が抜けてはいるがとりあえず読めてはいるみたいだ。


「花菜ちゃんそこ違うよ、あいさつって言葉抜けてるよ。それにゆっくりすぎて何言ってるのか分からない」


「花菜さん、大丈夫だよ。先生には伝わったからね。美咲さん、花菜さんは文字を読むのが苦手だから普通のおしゃべりの時よりも話すのが遅くなっちゃうの。


先生も説明しなくてごめんね。でもさっきも言ったけど、周りにいるお友達は自分がこれを言ったらどんな気持ちになるのかな? 


って想像してみてね。その言い方だと少し先生だったら悲しくなっちゃうな。他の子は聞き取れたかな?」



そう聞くと他の子は全員頷いた。でも美咲ちゃんはその言葉に怒ってしまったようだった。


「なんで? 本当の事じゃん。亮太君が小さい声だったのも、恵ちゃんが違うところ読んだのも今花菜ちゃんが遅かったのも間違えてたのもほんとの事じゃん。本当のことを言うのの何が悪いの? 美咲が悪いんじゃないのに先生にそうやって言われるのすごい嫌だ」



「美咲さん、本当の事かどうかは美咲さんにとっては大事かもしれないけど、それよりも周りのお友達がそれを聞いてどう感じるかを考えてみようね。


ここのクラスに来る子は他のことはちょっと違う個性の子なんだ。だからそれぞれ苦手な事があったり、美咲さんよりもうまくできないことがあったりするんだよ。


美咲さんも、他の子よりもできないことがあるかもしれないね。


美咲さんの言い方は、本当の事だとしても言い方が怖くて言われた子が嫌な気持ちになっちゃうと思うんだ。だから難しいかもしれないけどもう少し考えてから優しい言い方ができると良いと思うな」


その言葉に美咲ちゃんは真っ向から対抗してきた。

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