第14話

ベルが鳴って、道徳の授業が始まった。今日の内容は、「挨拶について」。挨拶することで相手との信頼関係が結べて、話しやすくなるという内容の物語が書かれている。これを読んで実際に児童に練習してもらおう。楓ちゃんもきっと話せなくても馴染めるようになってくれるはず。


「今日の三時間目は道徳です。道徳っていうのは、皆の気持ちをよく考えて行動したり、自分でいい事と悪いことを見極めて自分からいいことをできるようになることです。これは授業の中だけじゃなくていつもの生活でも心がけて欲しいことです。今日は挨拶について勉強します」


「美咲挨拶歩いてる時にすれ違った人といつもしてるよ、先生褒めて」


「美咲さん偉いね、じゃあ教科書を開いてください。今日は五ページです。


下のところに何ページか書いてあるからそこを見て、五のところを見つけてください。


まだ五は算数でやっていないので、先生が前の黒板に書いたのと同じ数字を探しましょう」


そう言って開いたページを見て回る。

全員が同じページを開けているみたいだ。

分からなかった子も隣の子のページを見てその色で判断したらしい。上出来だ。


「じゃあまずはこのページの音読を丸よみでしてもらおうと思います。楓ちゃんは話せそうかな?」


楓ちゃんが首を横に振ったので、「楓さんはまだお話が出来ないので、楓さんのところは先生が読みます。亮太さんから順番に、丸がついて文章が終わったところまで大きい声で読んでください。皆間違えてもいいよ、花菜さんは間違えても大丈夫だしゆっくりでいいから読んでみようか。それでも無理そうだったら先生に教えてね」と言って音読が始まった。


亮太君が文章を読み始めるも最初の自己紹介の時のように段々声が小さくなっていく。「秋葉先生きこえなーい」と美咲ちゃんから言われ、焦って亮太君が声を大きくした。読み切ったところで「亮太君ありがとう。美咲ちゃんは聞こえなかったら『もう少し声を大きくしてくれると嬉しいです』って言ってくれると亮太君も焦らなくってすむと思うんだけどそうできるかな?」


「美咲別に聞こえないって言われても焦らないでちゃんと最初から読み直せるもん」


「うん、美咲さんはそうかもしれないね。でも、さっき言ったみたいに、道徳の時間は皆の気持ちを考える練習をする時間なんだ。美咲さんは悲しくならないかもしれないけど、他の子は悲しいなって思ったり焦るなって思ったりするかもしれないんだよ。だから他の子の気持ちを少し考えてから声に出す練習をしようね」


「はーい」とまだ納得がいかなさそうな顔をしながら美咲ちゃんが答えたので、とりあえず美咲ちゃんのことはおいておいて「じゃあ次は恵さんお願いします」と声をかけた。

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