第12話
授業は数字の練習から始まった。一から数字を書けるように練習していく。これならまだしばらくの間は指名もしなくって良いし楓ちゃんも安心だ。
さっきの授業でやったのと要領は同じだ。字を児童の目の前で書いてそれを見て練習してもらう。今度は聡君には最初からノートを開いてもらうことにした。
恵ちゃんは……やっぱりこっち見てないな、ドリルをめくって中身を見ている。新しいものにはやっぱり興味がわいちゃうんだろうな。これもさっきと同じようにノートに書いてあげればいいか。でもこれも様子を見て良くならないようなら今度注意しなくちゃ。
まずは一の字を書いて児童の間を回る。これは比較的さっきのひらがなよりも皆早くできている。一の算用数字って殆ど縦棒だけだもんね。花菜ちゃんはさっきと同じようにゆっくり書いているからそれが終わったら次の字にいこうかな。
「秋葉先生美咲もう終わったから二やりたい、早く進めてよー、まだ一やってるの遅いよーただの縦の棒じゃん」
「ちょっと待ってね、美咲さんは上手に書けたね。でも皆ができたら次に進むからちょっと待っててね」
「早くしてよ皆、美咲もう終わってるんだから次のやりたいのに皆が遅いせいで勉強できないじゃん」
その言葉で花菜ちゃんが焦りだしたのが分かった。
「花菜さん、ゆっくりで良いからね。美咲さん、気持ちは分かるけど皆で勉強する場所だからもうちょっと待っててね。
美咲さんが苦手なことがあった時におんなじ事言われたら悲しいでしょ? ドリルの先のページ見てても良いよ」
「美咲苦手なときにそれ言われても悲しくないもん」
「そっか、でも先生は言われちゃったら悲しいな。だから先生のためだと思ってちょっと待ってられるかな?」
そこまで言うとやっと美咲ちゃんもおとなしくなってドリルのページをめくり始めた。この子はできるからできない子の気持ちがまだ分からないんだろうな。でもこのまま美咲ちゃんがずっとこういう態度でいると他の子が緊張してしまうかもしれない。他の子の勉強の妨げになるとそれも困る。まずはこの子には我慢を少し覚えてもらうことを目標にしよう。
そう考えながらまた児童の間を回って様子を見ては新しい数字を教えて、を繰り返してその日の授業では三まで勉強が進んだ。
元から数字を全て書ける子もいたが二や三は一に比べると難しかったらしく、鏡文字になってしまう児童が続出したためゆっくり様子を見ながら授業を進めた。
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