第11話

教室のドアを開くと恵ちゃんと美咲ちゃんが言い合いをしていた。


「もう授業のベル鳴ったんだから座ってなきゃ駄目なんだよ、恵ちゃんずっとうろうろしてるけどちゃんと座りなよ。美咲ちゃんとベル聞いて座ったよ」


「だってまだ先生来てなかったんだから良いじゃん。美咲ちゃん先生じゃないのにそんなこと言われなくてもいいもん。先生が言うんだよそういうの」


「美咲は先生じゃないけど先生の代わりに言ってあげてるの。ちゃんと聞いてよ、ほら座ってよ」


どうやら自分はベルと同時に席に着いたのに恵ちゃんがそうしなかったことが気に入らなかったらしい。


「授業を始めますよ、席に着いてね。美咲さん、注意してくれてありがとう。でも恵さんは落ち着かなくてずっと座ってることが難しいから今はちょっと許してあげてね。恵さんもベルが鳴ったら座っててくれると先生は嬉しいけど、どうしても落ち着かなかったら授業中でも言ってね」


美咲ちゃんは少し不機嫌な顔をして恵ちゃんの方を睨んでいた。私が恵ちゃんを怒らなかったのが嫌だったのか。高機能自閉症って言ってもまだ小学一年生だもんね。

そういうのも気になっちゃうよね。仲良くできるかこの二人は要注意だ。


他の児童はとりあえず席に着いているし教科書も机の上に出してある。よし、偉いよ皆。


「恵さん、机の上に教科書とノートを出そうね。それからさっき渡した鉛筆と消しゴムも。準備は良いかな?」


そう言うと恵ちゃんも無事に教科書を出して席に着いた。


よし、これで二時間目の算数の準備ができた。


ベルが鳴って授業開始。また全員で立って「お願いします」と言って算数が始まった。


「今日は二時間目は算数です。今日は数字の練習をします。皆ドリルを開いてね」


「秋葉先生私数字百まで言えるんだよ聞いて、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、……「美咲さんすごいね、沢山数字が言えるんだね。でも今は皆と一緒に勉強する時間だから待っててね。三学期になったら百まで練習するからそれまで待っててね」


「嫌だ、先生聞いてよ、美咲百まで言えるんだから聞いててよ。十一、十二、「分かったよ、今度の休み時間に聞かせてね。でも今は皆で勉強する時間なんだ。美咲さんは皆のために我慢ができるお姉ちゃんかな?」


「聞ける、代わりに先生後でちゃんと百まで聞いてね。美咲ちゃんと我慢できるよ」


「ありがとう、偉いね」


そう言ってもまだ美咲ちゃんは不満そうな顔をしていたがそれじゃ他の児童の勉強の時間がなくなってしまう。この子達の言うことはできるだけ聞いてあげたいけどそればっかりしていたんじゃ他の子のことを見るのがおろそかになってしまう。我慢も覚えてもらわなきゃいけないな。共感ができるようになれば自然とできるようになるだろう。

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