第8話
次の日から本格的に授業が始まった。最初だから皆緊張しているかも知れない、でも大丈夫。それは普通学級の子と何も変わらない。
一時間目は国語。まずはひらがなの練習から入るところだ。今日はア行をできるだけ、様子を見ながら進めたい。
子ども達同士で集まって話していたところに大きめの声をかけて注目を引く。
「これから最初の授業が始まります。一番最初は国語です。ひらがなの練習をします。皆ランドセルから国語の教科書とノート、ひらがなの練習用のドリルと筆箱を机の上に出してそれ以外は机の中にしまってください。席に着きましょう」
児童達がそれを聞いてはーいと返事をしてからおのおのの席に戻っていく。そこで一人だけ近寄ってきて「あきばせんせい」と声をかけてきたのはADHDの高橋恵ちゃんだった。
「どうしたの?」と声をかけると「先生、私筆箱持ってきてないです。おうちにわすれてきました」と言った。そのくらいは予想して準備してある。
「大丈夫だよ、今日一日は学校にある鉛筆と消しゴムを使って良いから明日から持ってこようね。忘れないように今度からは寝る前にランドセルの中を確認しようね。……聞いてるかな?」
「先生私筆箱がないんです」
「うん、だから今日は貸してあげるよ。明日からは持ってこようね」
「先生、なんで聞いてくれないの、筆箱がないの。恵困ってるの」
あれ、聞いて返事したつもりだったんだけど何がおかしかったんだろう。貸してあげるって言っているんだからそれで十分なんじゃないのか。
そう思っていると奥の席の大島美咲ちゃんが声をかけた。
「恵ちゃん、先生筆箱ないのは分かったって言ってたよ。中身貸してくれるって。明日からは持ってこようねっていってたよ」
「そうなの? 美咲ちゃんありがとう。先生もありがとう」そう言って鉛筆を消しゴムを受け取って席に戻っていった。
ああ、なるほど。私は一度”筆箱がないんだね”って言ってあげなきゃいけなかったんだ。そうしないとこの子は発想が飛ばせなくて私がなんで別の話をしてるのか分からないんだ。なるほど、先生のはずが初日から私が勉強になっちゃった。
でもきっと子ども同士だからこそ分かるようなこともあるんだろうな。次からは一旦話を受け止めるように気をつけなくちゃ。
先生が私なのは変わらないから今度からは他の子に言われなくても分かるようになろう。
そう思いながらとりあえず鉛筆と消しゴムを渡して授業が始まった。この授業でまず気をつけてあげないといけないのは右手を麻痺している阿部聡君とディスクレシアの藤巻花菜ちゃん。この二人に基本的に注意して授業を進めよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます