第7話
次の子は確か場面緘黙症。緊張して家以外の外の場所で話せなくなってしまう症状の子だ。「じゃあ次の三浦さんは立ってください。三浦さんお話できそうかな?」その女の子は立って小さく首を振った。
「分かった、大丈夫だよ。三浦さんは皆の前で話すことが少し苦手な子なので、先生が代わりに紹介します。この今立っている女の子は、三浦楓さんです。
この子がお話しできない事があっても、それは皆もするように緊張しちゃっているだけで皆のことが嫌いなわけじゃないので安心してください。
普通に会話することはまだできないけど、たくさん話しかけてあげてね。よろしくお願いします」
その言葉に合わせて女の子が小さく礼をして、また拍手が起きた。
まだ話せなくても当たり前だ。場面緘黙症では家族のように安心している人の前では普通に話すことができるがそれ以外の緊張する場所では言葉が出なくなってしまう。
今日が初めての学校で緊張しているんだから話せなくたって全然大丈夫。これからここが安心できる場所だって分かったら話せるようになるかもしれない。
今年のうちにそれが見られたら良いな。
ただ緊急時に声を出して助けを呼べない事はよくよく分かっておかないといけない。たとえば火事が起きて取り残された時、彼女には声が使えない。それはかなり危険なことだ。それだけ注意してよく見ていればきっと大丈夫。
「じゃあ次の阿部さん、立って自己紹介をお願いします」
そう言うと男の子が立って「阿部聡です。今年一年間で頑張りたいことは、字が上手に書けるようになることです」
この子は右手が麻痺していて殆ど動かない、いわゆる片麻痺の子。これからは代わりに左手で字を練習することになる子だ。
また拍手が起きた。次の女の子にも声をかける。その子が立って話し始めた。
「藤巻花菜です。今年一年間で頑張りたいことは、友達をいっぱい作ることです」
また拍手が起きる。藤巻花菜ちゃんは学習障害の中でもディスクレシアと呼ばれる、字を読むことが難しい障害を持った子だ。
その分耳で聞く事を増やしたり、ゆっくりとでも音読ができるようにしていけば対応ができる。この子も大丈夫。
よし、最後の子だ。「立ってお話ししてください」
「大島美咲です。一年生で頑張りたいことは、テストでたくさん良い点を取ることです。よろしくお願いします」
また拍手が起きた。この大島美咲ちゃんは自閉症の中でも言語に遅れが見られない、高機能自閉症の子だ。
クラスを見渡して言った。「今日からこの六人と先生で勉強していきます。困ったことや分からないことがあったらいつでも先生に聞いてください。一年間で皆が素敵なお兄さん、お姉さんになれるように何でもお手伝いします。よろしくお願いします」
児童からもよろしくお願いします、と返ってきて安心した。よし美菜実、今日からここが私のいる場所だ。障害なんてはねのけて個性にしてやるんだから。
そう息巻いてその日の入学式を終えてその子達が帰って行くのを見送った。
これから私が思い出に残るような先生になるんだから。
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