第107話

ドアが開いて唯はゆっくりと父親とバージンロードを歩いた。


周りには二人の友人が五十人近くいる。全員が唯のドレス姿に見惚れていた。


ここにいる全員に見つめられていると思うと歩き方を忘れるくらい緊張した。それでもなんとか待っている宙のもとにたどり着いた。


組んでいた手を離すとき父親は少し名残惜しそうだった。




「病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも、お互いに愛し合い慈しみ合うことを誓いますか?」


二人は顔を見合わせ、少し照れたような表情を浮かべてから穏やかに答えた。


ーー「はい」



可奈本人の強い希望もあって、友人代表のスピーチは可奈がすることになった。もう高いブランドコスメも買うようになっていた可奈だったが、その日使ったのは唯に褒められて何度も買い直したコスメと唯からもらった宝物のリップだった。もう使用期限なんて何年も前に切れているだろう。それでも可奈にとってはそれが一番だった。




「ただいまご紹介にあずかりました、中村可奈と申します。宙さん、唯さん、並びに両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。僭越ではございますが、お祝いの言葉を述べさせていただきます。


緊張していますので、いつも通り宙、唯と呼ばせていただきます。


唯と出会ったのは大学一年生の頃です。明るく朗らかで、誰に対してもとても優しい人でした。


私が『教授が何言ってたのか全く分からなかった』なんて言った日には、その日の夕方まで講義内容をかみ砕いて優しく教えてくれましたね。それがきっかけで私はその分野を専攻して学ぶことに決めました。私が学問の楽しさに気づくことができたのは唯のおかげです。


メイクのメの字も分からなかった私に付き合ってくれていたのも唯でした。私は唯とコスメ選びや映画、お茶をするのが大好きでした。


唯が逆境に立ったとき、傍にいさせてもらえたことも嬉しかったです。唯は強く見えて弱い部分も持ち合わせた人でした。それでも、唯は私と宙の助けを借りて一人で立ち上がりました。そんな唯のことをとても尊敬しています」


可奈はそこで一呼吸置いて、震える声で話し始めた。


「私は唯が大好きでした。一人の人間として、そして女性として愛していました。その想いは今でも色褪せることなくこれまでの人生の中で一番綺麗な気持ちとして残っています。そして一番綺麗な思い出として一生残り続けると思います。


唯を愛していたからこそ、宙の濃やかさと優しさは絶対に唯を幸せにしてくれると、ーー二人で幸せになってくれると信じています。


宙、唯のことをどうぞよろしくお願いします。絶対に幸せになってください。お二人の末永い幸せを心より願い、私からのスピーチとさせていただきます」


新婦を愛していたなど、本来ならタブー中のタブーだろう。それでも良かった。唯にとって可奈のスピーチが何よりのものだった。



唯は今でも自身が障害者であることを宙と可奈以外に打ち明けてはいない。きっとそれと同じだけの勇気がこの告白には要ったはずだ。涙を浮かべて、かけがえのない親友に感謝した。

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