第105話

唯がある日仕事から帰ってきてスーパーの袋を両手に持ったまま高らかに宣言した。


「私今日から虫になる!」


「え? 唯今なんて言った? 聞き逃せない言葉があった気がするからちょっともっかい言ってみ?」


「だから虫になる。今日から」


「俺お嫁さんが哺乳類じゃないのさすがにちょっと嫌なんだけど。何? 今更嫌いだったはずの昆虫に目覚めた? 俺としては足六本あるのさすがにちょっと多すぎると思うんだけど」


「ちーがーう、ダイエットするの! 細くなるの! 虫になるって言うのはお野菜しか食べないってこと! だから宙も付き合って? 一人だと途中でくじけそう」


「もう十分細いじゃん、これ以上この世から唯がちょっとでも減るの嫌なんだけど」


「でも前結婚式場決めたじゃん? ドレス綺麗に着られるようになりたいの。だからお願いします手伝って! じゃなきゃ夜中に一人でジョギングしてやる」


「あーまたそうやって俺の拒否権なくす、言っとくけど今でも十分美人だし細いからね? 手伝いはするけど」


「やったやった、宙が目の前でお肉食べてたら我慢できなくなっちゃうところだった。ていうか私今細くないよ、大学生の頃からしたら結構変わっちゃった。幸せ太ってるのを日々感じてるの! 二の腕が前よりぷにぷにしてて掴めるの! おなかも!」


「そう? 俺気づかなかったけどなあ、幸せ太りなら大歓迎だし。まあ分かった付き合う、ただちゃんと栄養は取ること。仕事中に倒れたりしたら何が何でも止めるからな。その条件のまなかったら協力しない」


「あいあいさー! 今日もお野菜いっぱい買ってきた! おいしくするからしばらくの間、結婚式までだけ付き合って?」


「俺がその顔に弱いの知っててやってるでしょ。もう全くうちの奥さんは確信犯なんだからしょうがないなあ」


そう言いながらも宙は結婚式前日まで唯の食事に付き合ってくれた。


「お、ねえ唯、ちょっと俺も痩せたわ」


「ねえなんで宙の方が先に痩せてるの?! 許せん」


「でも唯も痩せたじゃん、かわいいよ、更にかわいくなった」


「むー……許す……」


そんなやりとりをしながら結婚式までの日々を過ごしていった。

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