第103話
宙の家で初めて海と宙の両親にも会った。
気の利いて美人で明るい唯に両親とも「どこでこんな美人ないい子つかまえてきたんだ、ほんとに宙の彼女か?」と聞いてきた。
「うっさいなあこれが俺の彼女で婚約者です、大学から五年片思いしてやっと手に入れたんだから手放す気はない、父さんにもやらないからな」
「俺にまで嫉妬するのか、そこまで好きなら結婚してからも安心だな。こんな時代なんだからおまえも家事はちゃんとしろよ、唯さんに甘えてばっかりだと愛想尽かされるぞ、それこそ俺にさらわれるかもな」
「ちょっとお父さん今聞き逃せない言葉があったんですけど?」とすかさず母からの文句が入る。
「あー、気のせいだ、気のせい。とにかく甘えてっばっかりでいるなよ」と父親は母親に頭が上がらないようでさっさと話を畳もうとした。
そこに唯が肩身を狭そうにしながらも答えた。
「実は私が宙さんに甘えっぱなしなんです、家事も仕事量が私より多いはずの宙さんに任せてしまっているところもあって……」
「唯さんはそのままでいい、宙は手のかからない子だったが俺たちはそれに甘えて海にかかりきりだった。唯さんに愛してもらえればそれだけで幸せだろう」
その言葉で長年宙を縛り付けていた鎖もようやく外れた。自分のことを見ていなかったわけじゃない、見ようとしてそれでも手一杯で家族も申し訳ないと思っていたんだ。
宙が両親にまっすぐな目で見られるのは十年以上ぶりのことだった。
「こんにちは、宙の弟の海です」
「こんにちは。宙さんからお話はたくさん聞いています。大事な弟さんなんだよね」
その時久しぶりに心から唯にそうだよと言えた自分がいた。心の中にあったささくれたようなわだかまりはもうなくなっていた。
唯もこれまで相手の様子をうかがうことばかりだったため海とはすぐに打ち解けた。海に連れられて家の中をぐるぐると回る唯は楽しそうだった。
一通り唯を連れ回した後「兄ちゃんに愛想尽かしたら今度は僕のところに来てください」と手を差し出しプロポーズまがいのまねをして宙に両耳を引っ張られて連れ戻された。
「次行ったらもう唯のこと連れてこないからな」
「兄ちゃん器ちっさ」
「あ?悪いか?俺がどんだけ唯のこと愛してると思ってんだこのやろ」
帰り道少し不満そうな顔をしている宙に聞いた。「もしかして嫉妬してる?」
「悪い? 俺がこんだけ時間かけて唯のこと手に入れたのに横から二秒でかっさらおうとしたんだぞあいつめ」
「んーん、悪くない。むしろ嫉妬してもらえるような私でいられたのが嬉しい。宙が私のこと大好きなんだなあって思えていい日だった」
その言葉で宙も浮かれたような顔になった。
唯もまた宙を丸め込むのが巧かった。
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