第100話
二人とも仕事で平日はかなり忙しくしていたため、休日は二人でベッドの中で泥のようになって眠った。
どこにもいかなくていい、ただ一緒にいられればそれだけでよかった。
午後一時を過ぎた頃に目を覚ました宙が、唯がまだ眠っていることを確認してその頬を優しくなでてからゆっくりとベッドを出た。
家にあったフランスパンを切ってバターを塗りトースターに入れる。冷蔵庫から卵を出してそれを溶き、バターを落としたフライパンにゆっくりと注いだ。
強火のままでフライパンをかき回し続ける。固まってきた卵を丸めてオムレツを作った。
フランスパンもこんがりと焼き目がつき、どちらからもバターのいい香りがした。
それらを机に並べてからもう一度寝室に戻る。
すやすやと寝ている唯の子どものような顔が愛おしくてまぶたにそっとキスを落としてから軽く声をかけた。
「唯、おはよう。唯の好きなオムレツ作ったよ。起きられそうならおいで、二人で食べよう」
「ん……そら、おはよう」
まだ眠そうな彼女のとろんとした表情と声に宙は穏やかに笑った。
「おはよう。起きられそう?」
「おきる、ごはんありがと……」
と言いながらもまたまぶたを閉じようとする唯に笑って布団をゆっくりと畳んでから彼女を抱き上げた。
最初のうちは恥ずかしがって甘えようとしなかった唯も、もう慣れてほとんど無意識のうちに宙の肩に両手を回した。
彼女は普段朝に強いくせに休日になると何度でも何時間でも眠り続ける。最初のうちは心配していた宙だったが、大丈夫と分かってからは仕事で男前に働く唯が休日はとろとろしていると思うとかわいくて仕方なかった。こうして気づかれないように起き出してブランチを作ることがいつの間にか習慣になっていた。
席に座らせた彼女にスプーンですくったオムレツを差し出すと、ほとんど寝ている唯が口を開けて咀嚼し始めた。
「ん……おいしい……あれ? 夢じゃない? え、また私寝てた? でまた私宙にご飯作ってもらった?」
「ようやくちゃんと起きたね、おはよう。ご飯は甘やかしたくてやってるし代わりに寝てる唯の顔はばっちり撮らせてもらったので問題なしです。今日もかわいいね」
「え、やだ口開けて寝てない? 髪もボサボサだしどうせならもうちょっと綺麗なとこ撮ってほしいのに……宙がスマホ落としたら私の寝顔が誰かに見られるってこと? 無理無理、消して」
「だーめ。唯もう一口食べたんだから許しません。あと俺はこのスマホ絶対なくさないし唯の寝顔なんて誰にも見せたくないね、俺だけのなんだから」
「じゃあせめて宙の寝顔撮らせてよ」
「唯が休みに俺より早く起きられるなら好きに撮ってもらってかまわないけど?」
「くう……休みの日宙が隣にいると思うと幸せで起きられないの……」
「俺も隣で唯が寝てると思うと起きたとき幸せでたまんないの。しばらく寝顔見てても全然起きないし」
「恥ずかしくて死んじゃう……」
「それも駄目。俺より長く生きててもらうつもりなんだから。唯を看取ることなんて絶対したくないね、十八年寿命が短いなんてもんひっくり返してやらないと」
「私も宙に看取られたくないんだけど。泣くでしょ絶対。泣かせたくないもん」
「出ました唯の男前発言。じゃあ長生きしててもらわなきゃね。まあ、そんなこと言っても唯も泣くだろうから死ぬなら二人同じ日にしよう」
「決められるの?」
「今俺が決めた。だから長生きしてもらわなきゃな」
「私も宙ともっと一緒にいたいから頑張る。宙も長生きしてね」
「もちろん」
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