第99話

「あーーー温泉最高。個室に露天風呂付いてるのとかより最高だし唯の浴衣もすごいいい。一枚撮らせて」


「気持ちよかったねー、写真はお化粧落としちゃったのでお断りさせて頂きます、事務所を通してください」


「なんだよすっぴんの姿なんてこれまでも山ほど撮ってきたのに。じゃあツーショットなら許される?」


「許される……かもしれない」


「はい許された。撮るよ、はいチーズ」


その日二人は唯が提案した通りに休みを合わせて温泉に来ていた。どうせならたまには遠くに行こう、という宙からの提案で二人は大分県の別府温泉に来ていた。


「ここまで遠出するのなんてすーごい久しぶり。高校生の時の修学旅行ぶりかも」


「宙どこ行ったの? やっぱり京都?」


「そうそう、銀閣寺の良さがあのときは全くわかんなくてさ。金足りなかったのかと思ってた。今見たら多分違うんだろうな」


「高校生には確かにちょっと渋すぎるよね銀閣寺。私も京都行ったけど本家八つ橋のお店が二軒も三軒も並んでるの。本家とはって感じだったのが一番の思い出かな」


「あーあったあった。確かにな本家だらけだよなあそこ。今度もうちょっと仕事がお互いに落ち着いてきたら京都行くか」


「それもいいね、しばらくはまだ残業続きの日ばっかりだと思うけど」


「唯自分の仕事だけなら余裕で定時退社できるのにコンペだの企画案だの一人でいろいろやってるから残業してるんだろ? 愛しい婚約者のために早く帰ってきてくれてもいいんだけど……おっと、仕事には口出さないんだった。今の取り消し。なかったことにして。ごめん、唯頑張ってるもんな、偉い偉い。おかげで今日もこここれたしほんと自慢の彼女だわ。でもあんまり無理はしないで休みはしっかり休もうな、有給も全部消化しろって言われてるんだろ?」


「言われてる。いいよちょっとくらい口出しても。だって今の辞めろって話じゃなくて私のこと心配してくれてたんだもん、私も無理しないようにしないといけないなって思った。宙はやっぱり決まった量のお仕事があるから大変だと思うけどあんまり無理しないでね」


「そういうとこほんと負けるわ、唯には多分一生叶わない」


「どういうとこ?」


「心配してくれてるからって俺の失言許してくれるとこ。怒ってもいいんだぞたまには」


「じゃあ靴下裏返しのままで洗濯機に入れたことは怒ってる、あとたまにおいしそうな物買ってきて私を誘惑しようとするとこも追加」


「それは普通にごめん、でも美味しそうに食べてる唯見てるとやめらんないね」


そんなことを言いながら出てきた料理を楽しみ、二人は忙しい日々の疲れを癒やしていった。

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