第98話

二人とも仕事は順調すぎるくらいに進んでいった。


難関試験を突破して司法試験をパスした宙は事務所にも有望株として見られ、唯も転勤は希望せずに働いていたがそれでも顧客からの評価も高く若い女性の新しい視点を取り入れられると会社から重宝された。

唯に関してはサークルで培ってきた言語力と企画の立ち上げから売り上げのアップまでを考える力が最大限に発揮された。

新人からは異例とされる海外支社との新規事業立ち上げのメンバーにも選ばれた。


異例の早さで二人ともキャリアを積んでいった。


「ねえ宙ただいま聞いて、私新規事業の立ち上げメンバーに選ばれたし先週締め切りだったコンペも取った! 今度賞金出る!」


「おかえり、あんま焦るなゆっくり聞くから。てか今の台詞よく一息で言えたね? ……で、新規事業のメンバーとコンペ? そんなん新人に回されるもんなの?」


「本来なら三年以上は経ってかららしいんだけど、私がフランス語と英語使えるから勉強にどうかって回してもらえたの! コンペは私が企画案勝手に作ってねじこんだ!」


「全くその仕事量捌きながらコンペ参加するとか何なの、しかもねじ込んだ上に賞かっさらうとか自分の彼女として恐ろしいレベルだわ」


「それ褒めてる?」


「俺からの最大級の褒め。先週までずっと帰り遅かったもんな、よく頑張った、偉い。超偉い。我ながら誇らしいね」


「……でさ、ボーナス出るから休み合わせて旅行とか行かない? 温泉でも遊びにでも。宙も最近持ち帰りでも夜遅くまで仕事してるしちょっと私から癒やしを差し上げたいなーと」


「あー俺の彼女が最高に男前。仕事の休みもぎ取ってくる。温泉行こう、温泉。日々の疲れを全部温泉に置いてこよう」


「そだね、宙も毎日頑張ってるから疲れたよね、今日これからご飯でもいい? もうおなか空いちゃった?」


「今日はピザの気分。選んでたのも」


そう言って家事の負担をできるだけ減らそうとしてくれる宙がいたからこそ唯は仕事を完璧にこなしていられた。



聞けば可奈も出版社の中で第一希望として望んでいた編集部に配属されたという。文学部で日本文学を専攻し卒業論文を仕上げた可奈は校閲担当として活躍していた。


「毎回絶対私のところで校閲済ませようとしてるのに先輩がチェックすると誤字脱字が山のように出てくるの、それこそいい文章だとなおさら脳内補完されちゃって……私向いてないのかなあ」


「可奈、諦めたらそこで?」


「試合終了です……すいません先生、私校閲がしたいです!!」


「大丈夫だよ可奈なら。私のこと支えてくれながら就活も卒論も完璧にやりきったじゃん。それだけで十分すぎるくらいすごいことだしいまでもずっと感謝してるんだよ? 仕事だって絶対慣れてきたら先輩みたいになれるし私が可奈の校閲した本買うからそんなんでよければモチベーションにしてほしいな」


「なる、めっちゃなるありがとう唯好きすぎる、今唯が好きな作家さんの新作校閲してるからそれ買って」


「え、あの先生新作出すの?! 宙、あの先生の新作出るって! ……ていうかそれ言っていいの?」


「今の独り言。独り言。いいね? 独り言だから」


「独り言ね、オフレコだから。私何も聞いてない。宙何も聞いてないよね? ……聞いてないって。可奈の独り言は誰も聞いてない、聞いた気がしたら墓まで持ってく」


「スイマセン先生お世話になります」


苦しみ、時に失敗をしながらも三人全員が順調に自分の選んだ道を歩いていった。

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