第97話
唯が早く帰ってきて夕食を作っていた日、宙が帰ってきた。
「あーいい匂い、帰ってきて彼女に迎えられるとか最高。そうだあれやってよ、お風呂にする? ご飯にする? それとも私? ってやつ」
「やらないよいつの時代を生きてんのよ、もう令和だよ? そんなの恥ずかしくてできません。もうご飯もできるしご飯一択です」
「あ、ちょっと待ってご飯作ってもらってるとこ悪いんだけどちょっとだけ今火止められる?」
「? いいよ、どしたの? ……はい、止めた」
「じゃあこれ」そう言って宙が鞄から取り出したのは箱に入った有名ブランドの指輪だった。
「……今日なんかあったっけ、記念日……じゃないよね、宙の誕生日でもない。ごめん私こういうの忘れるタイプじゃないはずなんだけど忘れてる……?」
「全然忘れてない。……これ、婚約指輪。告白したとき結婚を前提にって話だったろ? やっと給料も安定してきたし、本当はずっと渡したかったんだ。俺もこれ付けててくれたら牽制できて安心。……受け取って、もらえますか?」
「……はい、どうしよう、うれしい、宙の分もあるの? 仕事中も付けてアピールしてくれる?」
「俺の分もある、するする。そっちこそ大学の頃から男寄ってきてたんだから最大限にアピールして彼氏を安心させて」
「そんなにもててないよ、ねえこれぴったりなんだけどなんで私の指のサイズ知ってるの?」
「嘘つけ文学部の男子の大半は唯に惚れてたね、サイズがあってる理由は企業秘密でーす、寝てる間に測ったとか言いません」
「言った、今言った。どうしようご飯もっと豪華なのにすればよかった、普通のご飯だよ今日。どうしよう何かお寿司とか頼む?」
「要らない要らない、唯のご飯何でもおいしいからいいの。今日の愛妻弁当も事務所のど真ん中で完食いたしました」
「うれしい、どうしよう嬉しいが飽和してる、これ以上受け取れないよ、もう無理、耐えられない」
「もっともっと俺のこと好きになれー、あなたは目の前の愛しい彼氏を好きになーる、好きになーる……」
「もう前提が愛しいになってるじゃん」
「違う? 俺拗ねるよ指輪渡した日に好きじゃないとか言われたら」
「違わないけど! でもちょっと照れちゃうの」
「じゃあ彼氏への愛しの言葉は?」
「恥ずかしいからなし! ご飯! ご飯が逃げる!」
「はいはい、ご飯は何ですか?」
「肉じゃがです! 私からの愛はこれで代わり!」
「え、俺が好きなやつじゃん、愛……感じたわ、もう満足」
「やっぱり宙ってチョロいなあ」
「なんか言ったー?」
「言ってません」
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