第91話
ある日、宙にあの日と同じレストランに誘われた。唯ももう答えを出さねばいけないことは分かっていた。
二人はあの日と同じように駅で待ち合わせてレストランに向かった。
席に着くと宙が唯には何も聞かずに二人分のチョコレートケーキとカモミールのハーブティーを頼んだ。
二人とも同じ本を読み続けていたのだ、言わずとも意味は分かっている。
”逆境に耐える”ーー言葉はなくともその花言葉は苦しく辛い三年間を生き抜いて夢を掴んだ唯へのメッセージだった。
「ここにこれあるなんて知らなかった、あの二人みたいだね」
カモミールティーを飲みながら唯が言った。小説の中の二人は惹かれ合い、そして結婚して幸せに過ごしていた。
「そうだね、だって俺もここにカモミールティー置いてるっていうの知って運命かと思ったもん」
宙はカモミールティーをもう一口飲んでゆっくりと机に置き、緊張したようなおももちで伝えた。
「唯がどんな困難を抱えていても、唯がどんなに泣き虫で頑なでも関係ない。会社で明るさを使い切ったら俺のところでずっと素のままの、疲れ切って泣き虫で悔しがる唯でいてくれてもかまわない。どんな唯でも愛せる自信があるし他の誰でもない唯といることが俺の幸せです。俺を、貴方の生きる意味にしてほしい。僕の唯一に、なってくれませんか。結婚を前提に付き合ってください」
もう創ったものではない唯がゆっくりと口にした。
「はい。私を貴方の唯一にしてください。それと私の唯一にもなってください。これからもよろしくお願いします」
店内からはそこにいたお客さんと店員さんからの拍手が起こって、そこに人がいることなど緊張で忘れていた宙は顔を赤らめながらその人達に礼をした。
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