第89話
秋学期に入る少し前、唯と可奈はキャンパス内で履修登録の確認をしていた。
「唯さ、今学期からは本格的に講義出るってことで大丈夫そう?」
「うん、夏休みの間に結構体調もよくなってきたし薬もようやく合ってきた感じがするから秋学期からはできるだけ取りたい、あとサークルにも戻ろうと思ってる」
「あんまり無理はしないでよ? ……じゃあ、これ私の三年秋学期の履修。この科目ならテスト問題は渡せるかな、ただ語学は私韓国語で唯はフランス語でしょ? そこは宙と一緒のはずだから宙に頼んで。それからこの授業今年から方針が変わってなくなったみたいだから代わりにこっちの文学取るとちょうど休憩挟みつつ授業出られる感じになると思う」
「ほんっと何から何まで助かる。頼りっぱなしだった分これからは頼ってね」
「唯には彼氏のことで頼り尽くしたでしょ、寛解までは頼ってくれると私が嬉しい。あと、もうすぐ来るはずなんだけど文学部にバスケ部の後輩いるからその子紹介する。多分一人紹介すればそこからは楽勝でしょ?」
「あーそれも助かる、春学期は全然とっかかりがないままひとりぼっちで授業受けて終わっちゃったんだよね」
「唯もそんだけ弱ってたってことでしょ、今なら大丈夫そう?」
「多分大丈夫。駄目だったらいっそ諦める」
そんな話をして五分ほどすると「可奈先輩!」と言いながら走ってくるショートカットの女の子が走ってきた。
「可奈先輩、お待たせしました」
「大丈夫、今さっきちょうど話し終わったところだから。唯、この子がバスケ部の後輩の桃。で桃、この子が私の親友の唯」
「田代桃と申します。桃はフルーツの字で桃です。唯先輩、これからよろしくお願いします!」
「湊咲唯と申します。唯我独尊の一文字目で唯です。もう同級生だから唯でいいよ」
「あんたまだその自己紹介してるの? 懐かし」と可奈が口を挟む。
「じゃあ唯さん、私のことも桃でお願いします」
「桃さん、これから同級生としてよろしくね」
「桃、この子めちゃくちゃ頭いいから分からないとこあったら私よりこの子にいくらでも頼りな」
「そうなんですか! 講義内容もし分からなかったら頼らせていただいてもいいですか……?」
「もちろん、いくらでも聞いてね。私も分からなかったら一緒に教授のところ行こう。ところで桃さんお誕生日はいつ?」
「まーた誕生日すぐ聞く、覚えいいのも変わらないねほんと」
そうして可奈に紹介してもらった桃のおかげで、唯は留年した学年でも着々と友人を増やしていった。
そこからの唯の動きは早く、回復してきた唯はまた広く友人を持ち好成績を叩きだして全科目で単位を取りきった。
サークルにも無事に戻って事情を軽く説明してから積極的に参加した。学年が変わってもサークルの友人は変わらず唯に接してくれた。
勉強もサークルも、一度はできなくなってしまったものの元々好きだった物は唯にとって好きな物のままだった。
一度嫌いになってしまった一番の小説も、また大好きな物に戻っていた。
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