第88話

可奈と宙に支えられて二ヶ月が経つ頃、唯は三食食べて夜早い時間から悪夢を見ずに朝まで眠ることができるようになっていた。


うつ病になんて負けてたまるか、とも思えるようになった。


少し回復した時、遺書を破り捨てようとしてやめた。苦しかった時の自分を捨てることなどできなかった。


悪夢を見てしまう日もたまにはあったが宙のおかげで夢と現実の境はきちんとつくようになっていた。


授業にも少ないコマ数ではあるが大学まで行って出られるようになっていた。


二人にそれを話してもう大丈夫だよ、これまで助けてくれてありがとう、もう十分だよ、と言ってみたがそれでも二人とも唯を支えるのを辞めなかった。


「私たちには一緒にいることしかできない。唯の病気を代わってあげることはどんなにしたくてもできない。どんなに他のことがしてあげたくてもできない。私たちはそれが本当に悔しい。どんなに他のことがしたくても傍にいることしか私たちにはできない。だからずっと傍にいる」

と二人とも口をそろえて言った。


唯としてはこんなに苦しい気持ちを、辛いことを、大切な二人になんて代わってほしくなかった。それでも二人とも代わりたいと言ってくれた。


「唯がするべきことは無理しないで休むこと。それ以上今は考えなくていいの」


「唯ちゃんは今俺たちに甘えるのが仕事。これまで我慢してきたんだからもうしばらくは俺たちを頼って。その方が俺たちも安心なんだ」


そう言われた言葉に返すことはできず、結局は半年弱二人を頼ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る