第87話

それから可奈は毎週水曜日と金曜日の六時頃に唯の家に来てはタッパーを回収して新しいタッパーを唯に渡して一緒に食事を摂るようになった。


「あー残してるし全くもう」


「先週あんまり食べる気起きなくて……だからもう来なくていいよ、私やっぱり一人でなんとかする、助けなんて要らない」


「そんなこと言われたって来るに決まってるでしょうが、一人にしておくのがこっちは怖いの。何もしゃべらなくていいからこれだけ食べな。今辛いんでしょ」


そう言って無言のままで一緒に食事を摂って早々と帰って行く日もあった。唯がどんなに拒否してもどんなにもらった物を残しても毎週可奈は絶対に新しいものを持ってきた。




「可奈のうちってタッパー何個あるの……もしかして私のために買った? それなら払いたいんだけど、そもそもこのご飯にもお金払いたい」


「全部百均、元々作り置き派だからほとんどうちにあったやつ。いくつかはさすがに買い足したけどそれも全部百均だからそんなこと気にしなくていいの。ご飯も一人分と二人分大して変わらないからいいの。……それより夜は? 今のとこ電話かけてきてないけど眠れてるの?」


「実は毎日宙君がかけてきてくれてる」


「あいつめ、私にそんなこと一言も言わなかったくせに抜け駆けしやがった……」


「試験勉強のついでみたいだし結構夜中までだから可奈はこうやって来てくれてるだけで十分すぎるくらいだよ?」


「でも悔しいじゃん! 唯の一番でいたいのにあいつにかっさらわれると思うとはらわたが煮えくり返るね」


「そんなに? 二人も結構仲いいじゃん」


「あいつはいっそのこと敵といってもいい、唯のことだから休戦してるだけ」

その時唯は可奈が”恋敵”として宙を見ていることを知らなかった。


「私取り合われてる? 『私のためにけんかするのは止めて!』とかいう少女漫画の台詞言おうか?」


「取り合ってる取り合ってる。言ってもいいくらいだわほんと」


「え、うそ今の冗談のつもりだったんだけど」


可奈が家に来た日はそのままゴミ袋を持って部屋を出てくれる日がほとんどで、唯の部屋も可奈の助けもあって段々と元の状態に戻っていった。

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