第85話

その日の夜、午後十時になって唯はベッドにもぐった。


ーー今日こそ眠れますように、今日こそ怖い夢見ませんように。どうか、もう今日だけでいいから朝まで眠れますように。


その思いもむなしく三十分が経っても眠気は訪れなかった。


やっぱり駄目か、可奈と話したから今日はいい夢見られると思ったんだけどな。ちょっとがっかり。



すると、聞き慣れた着信音が鳴った。宙からだった。


「もしもし? 寝てた? 起こしちゃってない?」


「んーん、眠れなくてスマホ見ようか悩んでたとこ」


「じゃあよかった。でもブルーライト浴びてると余計寝れなくなるからおすすめしないよ」


「ああ確かに、でもそれしか気を紛らわせるのにできることないし……宙君はどうしたの? 何か用?」


「実は俺今年の司法試験の予備試験受けるつもりなんだよね。合格率四パーセントとか言う鬼のようなやつ。で、こっから勉強始めるとこなんだけど睡魔に負けそうだから唯ちゃんに頼もうかと思って」


それが唯のための言い訳だったことにはすぐ気づいた。


「その心は?」


「やっぱばれたか、唯ちゃんには通用しないな。可奈から今日唯ちゃんとずっと一緒にいたって聞かされてさ、実はちょっと妬いてんの。あ、まだ告白の返事はするなよ、弱みにつけ込みたくないし。大体あんな時に言うつもりじゃなかったんだから。でも俺にも甘やかされてくれないかなーと思って電話しました。白状したから甘やかされてください」


「いつもなら大丈夫だから遠慮するって言うところだけど今日散々可奈に甘やかされて駄目人間になりつつあるのでこのまま甘えさせていただきます」


「よっしゃ! やば、正直可奈に負けると思うとめっちゃ悔しいからよかった。さすがに女の子のうちには上がれないし昼間も結構授業詰まってて海もいるから俺に残されてるの夜だけなんだよね、マジありがとう」


「いやありがとうはこっち……」


と言いながらも唯はおとなしく甘えることにした。

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