第81話
でも電話越しの唯は自分よりもずっと傷ついているようだった。
それでも。可奈はいつも自分の彼氏に唯が怒ってくれていたように怒った。唯を相手にして怒るなんて初めての経験だった。
「唯はずっと私に仲良く”してもらってる”なんて思ってたの? 私はそんな、仲良く”してあげてる”つもりじゃなんかなかった。好きで一緒にいるのに。そんな、唯が苦しんでることで私が唯を嫌うなんてあり得ない。私がどれだけ唯を大切に思ってきたと思ってるの。大切に、してもらってたとも思ってた。違ったの? それに私の幸せなんて私が決めるの。私が唯と一緒にいたいからいるの。唯といて私は幸せなの。不幸に思ったりしない。唯の調子が悪くても私は唯の傍を離れたりしない」
言葉は強くなっていった。でもなんとかそんなこと、という言葉は飲み込んだ。唯がずっと苦しんでいたことをそんな一言で一蹴したくなかった。
「障害があったってそんなの関係ない。私は唯が好きなの。明るくなくたって、泣いてたって怒ってたって唯はそれでいいの。そのくらい大切に想ってるの。唯との思い出は私の宝物なの。それを壊さないで。唯と一生一緒にいたいと本気で思ってる。これからも、おばあちゃんになるまで、ずっと。だから、」
ーーお願いだからいなくならないで。
そう言った声は自分でも驚くほど弱々しかった。
この”好き”が、”想っている”が、唯への告白だと言うことには気づかないだろう。それでも良かった。
ありがとう、ありがとうと言い続ける唯の弱々しい声を聞いて、初めて唯の弱さを知った。更に唯のことを愛おしく思った。
自分の弱さをさらけ出してくれたことに、不謹慎ながら嬉しく思った。
少し待ってて。そう言って電話を切って、泣いてボロボロになった顔なんて気にせずに自転車に乗って全速力で走った。
家に入った瞬間に唯を抱きしめた。その体は前よりずっと痩せ細っていた。
「これまで、辛い日も生きててくれてありがとう。大好きだよ。だからこれからも生きてて。お願いだから」
その時伝えられる全てのことがその言葉に詰まっていた。
二人で抱きしめ合ったまま泣き崩れた。泣いて泣いて、涙が涸れるほど泣いて、ようやく二人とも落ち着いた。
二人でお互いにひどい顔、なんて笑い合った。顔が元に戻るまで、と言い訳を付けてそのまましばらく唯の家にいた。
よくよくみてみれば唯はパジャマのままだったし、部屋は以前来たときよりずっと荒れていた。
それだけ苦しい中自分に電話してくれたんだ。伝えてくれたんだ。
自分には傍にいることしかできない。なら傍にいる。
宙に障害者手帳を見られてしまったこと、そのまま泣きながら全てを話したこと。唯はぽつぽつと泣き腫らした目で話していた。
そっか、だから告白”は”してきた、なんて言ったのか、と一人で思った。
宙に話したからには、可奈のこともすごく大事に思ってるから話すことに決めた、と聞いた。他の誰にも知らせないでくれると嬉しいな。でも宙と私のことを話してもいいよ、とも。
自分が親友として数えられていることが嬉しかった。唯のことを誰にも話さないと信用されていることも嬉しかった。
きっとその想い方は私と違う。それでもよかった。十分すぎるくらいだった。唯のことが大好きなのは、唯が泣いていても、パジャマでも、部屋が荒れていても変わらなかった。
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